『-one-』

田口家へようこそ! P6


 俺って情けねぇ…。

 結局タイミングを掴めないまま夕飯も終わってしまった。

 これ以上ぐずぐずしていられない。

 もう一度ネクタイを締め直していると後ろから声を掛けられた。

「陸くんは今日泊まって行くんだって?」

「あ…えぇ…お邪魔じゃなければ…」

 ス、スーツ姿!?

 お義父さんはさっきまでラフな格好をしたいたのにスーツを着て髭を剃って髪もセットしていた。

 まるで今からどこかへ出掛けるみたいだ。

「構わないけど…」

 俺の前に立つと顔をジッと見た。

「うーん、ちょっと立って」

 言われた通り立つとネクタを外されて髪を触られた。

 し、身体検査!?

 まさか樹さんみたいにゲイ…なわけないよな…お義母さんとあんなに仲がいいんだから。

「あ、あの…?」

「麻衣、ワックス」

 俺の事は無視してテレビを見ていた麻衣に声を掛けた。

 一瞬キョトンとした麻衣もすぐにワックス持って戻って来た。

 その後はされるがままの俺。

 ワックスで髪を整えるとシャツのボタンを外されて胸が肌蹴る。

「陸、すごくいい…」

 隣に立っていた麻衣が頬を染めて俺を見た。

「ほらっ!自分で見て?」

 麻衣が俺の腕を引っ張って玄関の姿見の前に立たせた。

 これって…鏡に映る自分を見て驚いた。

「ホスト陸が脱皮したって感じ?」

 一緒に鏡を覗く麻衣が嬉しそうに笑った。

 今までのクールな感じが少しやんちゃな感じになっていた。

「陸くんは、そういう感じが合うわね〜」

 奥から出てきたお義母さんも嬉しそうに俺を見た。

「若いうちは変に大人びたキャラ作ってると疲れんだろ」

 妙に説得力のある言葉が胸に響いた。

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