『-one-』

田口家へようこそ! P3


 麻衣の後をついて行くと広いリビングに出た。

 一面の窓ガラスで陽射しが入ってすごく明るい。

 部屋はお義母さんのセンスがいいのかキレイにまとまっている。

「陸?座って」

 コーヒーを持ってきた麻衣が手招きした。

 お義母さんの姿がなくて少しホッとしてソファに座った。

「ケーキ食べよ?」

 来る途中に買って来たケーキを箱から出して皿に乗せた。

「はい、陸のショートケーキ」

 麻衣は指にクリームを付けたまま自分のケーキを真剣な表情で選んでいる。

「麻衣の方がおいしそう…」

 ちゅぱっ…

 思わずいつものようにクリームの付いた指を舐めてしまった。

 クリームがなくなっても麻衣の指は甘く感じた。

「陸ぅ?そんな事すると苺食べちゃうよ!」

 怒った顔をした麻衣が可愛くてつい調子に乗った。

「いいよ。ほら食べて」

 指で苺を摘むと麻衣の口へと運んだ。

「そんな小さい口じゃ入らないよ?」

 さっきよりも大きく口を開けるとそっと苺を口の中に入れてあげた。

「ん!おいしいっ!」

 嬉しそうな顔をする麻衣の口元に指を近付けた。

「まだクリーム残ってるよ?」

 麻衣は唇の間から赤い舌を出して猫みたいに指を舐める。

「麻衣…可愛い」

「陸…さすがにこれ以上はダメだよ?」

 ここが麻衣の実家だと言う事をすっかり忘れていた。

 その言葉にハッとして顔を上げるとお義母さんがドアの近くに立っていた。

「こ、これは…あの…」

 必死に弁解しようとする俺を見てクスクス笑った。

「若い頃の竜ちゃんそっくりねぇ」

「竜ちゃん…?」

 お義母さんの言葉をもう一度聞き直した。

「竜ちゃんは私の旦那さま、麻衣のお父さんね」

 まだ赤い顔をしている俺に笑いながら答えてくれた。

 麻衣も気付いてたんならもっと早く止めてくれればいいのに。

 出鼻をくじかれて気持ちが落ち込んだ。

「お父ちゃんにそっくりって言われても微妙だし。」

 竜ちゃんかぁ…。

 まだ名前で呼ぶんだすごく仲がいいんだろうなぁ。

「そんな事言って結局こういう人を選んだくせに」

 ん?またか?

 二人は俺の顔を見た。

「こういう人?」

 自分の事を指差して麻衣に聞いた。

「あぁ…結局こういう人になるとは…」

 おいおい…溜息吐くなって。

「そう言えば肝心のお父ちゃんは?」

 あ…忘れてた。

 本来の目的を…お義父さんにちゃんと挨拶をして認めて貰わないといけない。

 また緊張してきた。

「昨日も遅かったからまだ寝てるけど、もう起きるんじゃない?」

 そう言えば麻衣のお父さんって何をやってる人何だろう。

 一度も聞いた事がなかったこんな事ならもっと麻衣に話を聞いておけばよかった。

 毎日遅いならすごい大企業で働いてるのか?

 そんな人がホストの俺を受け入れてくれるんだろうか…。

「お仕事忙しいんですね」

 二人の動きが止まった…。

 え、何?今の質問ってやばかったの?

「忙しいの?」

 麻衣も目の前にいるお母さんに聞いている。

「相変わらず?」

 分からない…何だかよく分からない…この家族。

「ちょっと様子見てくるわぁ」

 お母さんが出て行った隙に俺はこっそり聞いた。

「お父さんって何やってるの?」

「んー色々?うちね自営なんだけど、まぁ手広く?」

 自営?手広く?

 嘘だろ…会社社長なのかよ…。

 俺、大丈夫か?

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