『-one-』

サンタが僕等の店にやってくる P3


 首から下はまるでイベントの女の子みたいに可愛いのに三角の帽子と白い髭って…これは罰ゲームですか?

 鏡に映った自分の姿を見て泣きたくなった。

「ではサンタさん、行きましょうか?」

 有無を言わせない笑顔で微笑まれると麻衣は誠の後ろについて歩き出した。

「メリークリスマス!」

 掛け声と同時に店の照明が一斉に消えて大きなツリーだけがチカチカと光っている。

 各テーブルのホスト達がキャンドルに火を点ける。

 真っ暗な店内ではぽつぽつと次々とキャンドルの明かりが灯されて幻想的な雰囲気に包まれた。

「今宵ここに舞い降りた素敵な天使達に」

 誠に照明が当たった。

 ちょうど影になってフロアから麻衣の姿は見えない。

「サンタからプレゼントをお届けに参りました」

 誠が笑顔でフロアに向かって頭を下げると一斉に盛り上がった。

「さぁ行きましょう」

 誠が声を掛けて後ろを俯いて歩くのは…セパレートタイプのサンタの衣装を纏った麻衣。

 肩紐は可愛らしくリボンで結んで胸元とミニスカートの裾にはお約束白いフワフワのファーが付いている。

 胸元の中心にぶら下がる白いポンポンが歩く度に麻衣の胸に当たり弾んだ。

「誠さん、可愛いサンタ連れてるー!」

 キャンドルの明かりで浮かび上がる麻衣を見て女の子が口を尖らせる。

「そうですか?私の目には美沙さんの方が素敵に映ってますよ?」

 誠は王子様のように片膝を付くとプレゼントを手渡した。

 女の子はそんな誠に見惚れホストはサンタに目を奪われた。

「メリークリスマス!」

 次のテーブルには麻衣もよく見慣れた顔がありました。

「誠さん王子様みたーい!」

「オーナーもひどいですよ?これじゃあ女の子全員オーナーにもってかれちゃうじゃないですかぁ」

「悠斗くんってばヤキモチ?」

「オアーナーばっか見てるからだろぉ?」

 イチャつく二人から見えないように麻衣はなるべく誠の後ろに隠れていた。

 プレゼントを取ろうと誠が振り向けば当然視線はサンタにも…。

「女の子のサンタ?誠さんってばどこで探してきたんすかぁ?」

 悠斗と女の子がミニスカートのサンタをジロジロと見ている。

「ちょうど可愛いサンタが仕事を探してたみたいでお願いしたんですよ」

 無理矢理美咲に着せられてタクシーに乗せられたんですよ!

 麻衣は周りに気付かれないように誠さんにベッと舌を出した。

 悠斗はずっとサンタから目を離せないでいた。

 帽子と髭で顔がほとんど隠れているサンタの顔をジーッと見ながら出掛かっている人物の顔を必死に思い出そうとしていた。

 麻衣が悠斗の視線に気が付くと思わず小さな声で呟いた。

「そんなに見ないで…」

 言いながら恥ずかしそうに体をひねった姿に悠斗は思わずあっと声を上げた。

「ま、ま…」

「どうしたの?悠斗くん」

「悠斗?お仕事中なのを忘れないように」

 麻衣に見惚れてしまった悠斗は誠に耳打ちをされて睨まれると慌てて客に向き直った。

 悠斗はサンタの後ろ姿を見ながら心底店の中が暗くて助かったと思った。

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