『-one-』
お兄ちゃんとご対面 P6
閉店後の店内−
「本当にご迷惑をおかけしました」
誠さんに何度も何度も頭を下げた。
「いやいや、売上も伸びたし助かりましたよ?」
ほれ見ろと言わんばかりの顔をしたお兄ちゃんをもう一度キッと睨みつけた。
「まさか、麻衣さんのお兄さんだとは思いませんでした」
はぁ…何でよりによってココで…。
違う…陸がいるからわざわざココを選んだんだ。
「お兄ちゃん、どうして分かったの?」
「俺の情報網をバカにするなぁ〜」
そう言ってこめかみを挟み込まれてグリグリされた。
「ちょっと…」
陸に引っ張られると奥に連れて行かれた。
「ごめんね。まさかお兄ちゃんがココに来るとは思わなくて…」
「い、いや…それはいいけど」
もじもじと言いにくそうに下を向いている。
「何?」
「俺、ちゃんと挨拶したいんだけど」
…陸。
その言葉に嬉しくなる。
「麻衣分かってると思うけど、俺半端な気持ちじゃないんだよ?」
うん、分かってるよ…。
「ん、話する機会は作るから…」
「なんなら、今からでも?」
兄の樹が後ろから顔を覗かせている。
二人の後ろに立ってニヤニヤ笑っていた。
「い、いつからいたのっ!」
「んー俺ちゃんと挨拶…くらいから?」
陸は戸惑った顔をして私の顔を見た。
「俺も麻衣の彼氏とゆっくり話してみたかったし、仕事だけじゃよく分からないからなぁ」
…よく言うわ。
どうせ善からぬ事を考えてるんでしょ。
「これから、おまえの部屋で話そうか」
お兄ちゃんが陸の肩に手を回すのを見て慌てて止めた。
「べ、別に今からじゃなくても…もう遅いし」
「麻衣?俺は全然構わないよ?」
いや、だからそうじゃなくって…。
「じゃ、じゃあ私も一緒に行くよ。」
「大丈夫だよ。こういうのは男同士の方が話しやすいし、じゃあ、行きましょうか?」
お兄ちゃんは歩いていく陸の姿を見送ると小さく呟いた。
「弟になるかもしれない奴は食べないよ?…たぶん」
たぶんて、たぶんってー!!
いつもそうやって好きになった人を毒牙にかけて…メロメロにするくせに…。
そう…私の兄、田口 樹は…ゲイなのです。
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