『いつかの夏へ』
2

 てっちゃんは部屋を出て行った。

 動けない私を雅樹は抱き上げて部屋の中へと連れて行った。

 何も言わず黙ったまま靴を脱がせて玄関に置くとすぐに戻って来た。

「真子?」

 その声に体がビクッとする。

「鞄離せる?」

 私は爪が手の平に食い込むほどに鞄を握っていた。

 指を開こうとすると私の手を雅樹の大きな手が包んだ。

 決して慌てることなく一本ずつ開きながら私の手から鞄を離すと少し離れた場所に置いた。



 その鞄をチラッと見ると泥だらけでグシャグシャだった。

「真子、誰がやった?」



 声が震えている。

 答えずにいるともう一度雅樹は聞いてきた。


「…私…ごめんなさい」

「謝らなくていい」

「私…雅樹……怒らせるつもりなくて…」

「もういい」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

「謝らなくていいっ!!」

 謝る私に雅樹が声を荒げると体が強張った。

「もう怒ってない。怒ってないから」

「でもっ…私もう…汚ッ……」

「汚くない。お前は汚くなんかない」

 雅樹はそう言いながら私の体を抱きしめてくれた。

 強張る体と張りつめた神経を解すように何度も何度も背中をさすってくれた。

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