『いつかの夏へ』
1
部屋に帰ると雅樹は部屋に居た。
てっちゃんに抱えられながら部屋に入る私に声を掛けようとして口を噤んだのが分かった。
辛そうな顔をして私から視線を逸らしている。
(帰って来なければ良かった…)
「真子ちゃん…靴…脱げる?」
私は一歩も動けなかった。
あんな顔の雅樹を見てしまったらどんな顔で部屋に上がればいいのか分からない。
(来ちゃいけなかったんだ…)
「真子ちゃん?」
てっちゃんの声はいつもより優しくて壊れ物に触れるみたいにそっと私の肩に手を置く。
もうケンカする前には戻れないと分かっていたのにノコノコと戻って来た自分に腹が立った。
全部自分のせいなのにあんなに怒らせてしまった雅樹になんて言えばいいのか分からない。
頭に浮かんだのは雅樹に蹴られた男の子の姿。
でもその顔は血だらけの私の顔だった。
「ア…ァァァァ…」
私は振り返ってドアノブを握った。
何度回してもガチャガチャ音を立てるだけでちっとも開かない。
「真…子ちゃん?」
「…さい、…なさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
私はドアノブが壊れるほど回し続けた。
「真、真子…?」
雅樹の声に恐る恐る振り返った。
「真子、どうした?」
雅樹の手が私に向かって伸びてくる。
「イヤァーーッ!!!」
私は頭を抱えて叫ぶとしゃがみ込んだ。
それでも雅樹の手は私の顔めがけて伸びてくる。
(殴られるっ…!)
「ごめんなさい、ごめんなさい…殴らないで…殴らないでぇ…嫌ぁぁぁっ」
体を小さくして私は必死に頭を手で覆った。
ドンッ−
私の体に何かが当たったと思ったら体が温かくなった。
顔を上げると雅樹がうずくまる私を抱きしめていた。
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