『いつかの夏へ』
4
「てっちゃんは今何してるの?」
「T社で営業」
「へぇ…営業。びっくりだなー」
「ハハハ…あの頃の俺じゃ考えられないもんな」
あの頃の俺じゃ…という言葉に小さく笑ってしまった。
てっちゃんは誰よりも人に頭下げるのが嫌いでケンカと聞けばすぐに飛んでいくような男の子だった。
いつも一緒になってバカやってる姿をハラハラしながら見ていた。
「真子ちゃんは何してるの?」
「普通にOLしてるよ。働かないとこうやって飲めないしね」
グラス片手に笑顔を作る。
「ま…お互い大人になったってことだな」
二人で笑いながらまたグラスを合わせた。
(大人になった…か)
見た目は大人になった。
酒もタバコも覚えたけれどそれが大人になった証とは思えない。
「真子ちゃんさぁ…結婚とかしないの?」
「ブッ…!!ゴ、ゴホッ…ゴホゴホッ!」
飲みかけていたビールを吹き出しそうになって慌てておしぼりで口元を押さえる。
気管に入ったビールにむせて涙目になりながらてっちゃんの顔を見た。
「大丈夫?」
心配はしているけれど目が笑っている。
「急に変なこと言うからでしょ?」
私はムッとした表情で睨みつけた。
ゴメンゴメンと笑いながら徹哉はビールを注いだ。
「もういい年だし結婚してるやつも結構いるだろ?」
まだこの話を続ける気らしい。
それも興味本位程度での会話ではないんだというのをてっちゃんの表情から感じ取った。
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