『いつかの夏へ』
3
てっちゃんは彼らの所へ戻って少し言葉を交わすと戻って来た。
「真子ちゃんは一人?」
「うん」
「隣いい?」
「友達はいいの?」
「あいつらは嫌でも毎日顔合わすから問題ないって」
てっちゃんは笑いながら隣に腰掛けた。
上着を脱いだてっちゃんはあの頃の面影は薄くもう大人の男だった。
「再会を祝って」
二つのグラスに冷えたビールが注がれた。
私達はグラスを掲げて軽く音を立てて久しぶりの再会に乾杯した。
「それにしても真子ちゃん…変わってないねー?」
「微妙に嬉しくないよ?少しは女っぽくなったでしょ?」
わっちゃんが昔のように私を眺めながら笑っている。
変わった言われるより変わってないと言われる方が嬉しくないとは微妙な女心。
それでも変わってないという事は老けてないという事かもしれないと思えばあながち悪い気もしない。
「うーん…全然変わってないよ?見てすぐに分かった」
「嘘…ショック。…てっちゃんは大人になったねぇ」
私は妙に感心したような口調で呟いた。
てっちゃんは一瞬キョトンとした顔をしてから吹き出した。
「大人って!俺いくつになったと思ってんの?」
「そうだね。もう何年経つんだっけ…」
分かっていたのに小さく呟いた。
「十年…だな」
さっきまでの明るさが消え呟くような小さな声だった。
人の一生の中で十年は長いのか短いのかは分からないけれど私には長い長い10年だった。
記憶の中の学ランの男の子がスーツを着て眼鏡を掛けて目の前に突然現れる。
それがすぐに誰か分からないのが十年という時の流れ。
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