『いつかの夏へ』
3
ホームルームが終わった。
みんなは騒ぎながらいつもカラオケボックスへと飛び出していく。
去年までの私もそうだった。
けど今は違う…
「帰りにテツと新しい単車見に行くけどどーする?」
「どうしようかな…」
「…嫌なら帰れば」
立ち上がった雅樹が見下ろしている。
それもさっきまでのご機嫌な顔はどこへ行ったのか不機嫌な顔をしている。
「一緒に行くもん」
私は鞄を持って立ち上がった。
「だと思った」
雅樹は私の手を握ると歩き出した。
いつも自信たっぷりで私の事なんてすべてお見通しだった。
けれどあの強い瞳で心の奥底まで見透かされるのは嫌いじゃなかった。
「飯、何食いたい?」
「何でもいーよ」
「真子っていつも何でもいいって言うよな。自己主張しろよ」
「だって何でもいいんだもん」
本当にそうだった。
雅樹と一緒ならどんな物でも美味しかったから何でも良かった。
「じゃあたこ焼き」
「いいよ。お腹膨れる?」
「たこ焼き10箱」
「ほんとに?」
「嘘」
私達はクスクス笑いながら教室を出ようとする。
みんなが私達を遠巻きに見ているのを感じる。
雅樹と付き合うようになってから感じるようになった視線だった。
最初のうちは気になっていた私も雅樹を好きになるにつれてだんだんと気にならなくなっていた。
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