『いつかの夏へ』
4

「柏木!」

 教室を出た所で担任に呼び止められた。

「はい、何ですか?」

 教壇にいる担任の所へ戻った。

 雅樹は廊下で壁にもたれて待っている。

「お前…瀬戸と付き合ってるそうだが…」

 廊下にいる雅樹をチラッと見ている。

 その態度に胸の奥がざわついた。

「お前は成績優秀なんだし…就職にしろ進学にしろこれから大事な時期なんだから…その…」

 担任はチラチラと雅樹の方ばかり見ている。

「瀬戸くんといたらいけないという事ですか?」

 すごく不愉快だった。

 雅樹の良い所を全然見てないくせに見た目だけで判断されてコソコソ言われるのが悔しかった。

「いけないわけじゃないけど…お前の将来を思ってだなぁ…ご両親だって心配してるんじゃないのか?」

「将来って何ですか!なんで瀬戸くんと付き合うと心配なんですか?」

 私は今まで決してクラスでも目立つ方じゃなかった。

 勉強も普通に出来て友達も普通にいて先生に怒られたりする事もあまりなかった。

 その私が先生に噛み付いている。

「いや…だから…ッ」

 先生の視線が私を通り越して固い表情をした。

 私の手が後ろに強く引かれた。

「腹減った」

 真後ろに来ていた雅樹が私に声を掛ける。

 振り返ると雅樹の向こうに廊下にいるてっちゃんや友達が先生を睨みつけているのが見えた。

「テツがラーメン食いたいって」

 ホッとして涙腺が緩む。

 ジワッと涙が滲んでくると雅樹は私の頭をグイッと押さえつけるように掴んで抱き寄せながら歩き出した。

 雅樹の足元を見ながら私の耳にはてっちゃん達のひやかす声しか聞こえていなかった。 

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