『いつかの夏へ』
2

 ザワッ−

 教室にいた生徒全員が入り口に注目した。

(うわっ…やっちゃった…)

 私は力が抜けてすとんと椅子の上に座り込んだ。

 教室の前のドアから現れたのは先生に服をつかまれた金髪の雅樹だった。

「ったく…うるせぇな」

「明日から夏休みだからってなぁ…後で職員室来いよ」

「分かったって!」

 雅樹が面倒くさそうに返事をすると生徒指導の先生はブツブツ言いながら教室を出て行った。

「おはよ。真子ちゃん」

 ご機嫌な雅樹がニコニコしながら前の席に座る。

 鞄も持たず手ぶらで昨日まで茶色だった髪は太陽が当たるとキラキラ輝く金髪だった。

「どうしたの…頭」

「かっこいいだろ?」

 返事に困った。

 昨日までの雅樹とはまるで別人だった。

「席につけよー」

 担任が教室に入ってくると真っ先に金髪の雅樹を見つけギョッとした顔をした。

 けれど何も見なかったフリをして教壇に立つ。

 髪を金髪に変えただけで鼻歌を歌うほどご機嫌な雅樹がすごく遠く感じた。

 目の前に座っていて手を伸ばせば触れられる距離にいるのに怖くて手が伸ばせない。

 言い表せない不安を感じた。

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