『いつかの夏へ』
4

「でも…今度来た時は真子を貰うからな?」

 瀬戸くんは私の横に手を付いて顔を近づけた。

 耳のすぐ横で囁くような声にドキドキする。

「せ、瀬戸くん?も、貰うって…」

「真子の全部。真子は俺のだろ?」

 それは少女マンガで読んだことあるような少しエッチなシーンに似ていた。

 そのの声も瞳も時々私の髪に触れる指先も大人びて見える。

「それと…雅樹な?」

「え?」

「これからは雅樹な?」

 少しはにかんだ笑顔で笑っている。

 私の髪を弄りながら口元に手を当てている姿がいつになく可愛いと思った。

「呼んでみ?」

「ま…さき」

 初めて呼んだ名前は少しぎこちなくて喉の奥に引っ掛かったようにうまく呼べなかった。

 それでも呼ばれた本人が嬉しそうに笑ってくれてホッとする。

「真子は俺のもんだからな」

 雅樹の顔が斜めになったと思ったらゆっくり唇が重なった。

 あの視聴覚室でした初めてのキスなんて思い出せなくなるくらい熱くて長いキスだった。

 唇を離すと雅樹は私を抱きしめて肩に顔を埋めた。

「失敗した。今度なんて言わなきゃ良かった」

「何が?え?失敗?」

 自分の何がいけなかったんだろうと私は真顔で雅樹に聞き返した。

 雅樹はジーッと私を見つめると小さくため息を吐く。

「可愛いから許す」

 そう言って私の額を小突くと立ち上がった。

「来いよ!」

 テーブルの上のキーを掴んだ雅樹が玄関を飛び出して行く。
 
 私も弾かれたように立ち上がるとその後ろ姿を追いかけた。

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