『いつかの夏へ』
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「さっさと入れって…」

「で、でも…」

 そのまま連れて行かれたのは瀬戸くんの部屋。

 二階建ての小さな木造アパートで一番端の201号室。

 そのドアの前で私は及び腰で二の腕を掴まれていた。

(い、いきなり部屋なんて…)

 高三になって初めて告白されて始めて彼氏が出来た。

 そしていきなり彼氏の部屋にご招待。

 それを一日ですべて経験するには私の恋愛経験値はあまりにもお粗末だった。

「いーから、入れって!」

 声を荒げた瀬戸くんは引きずるように私を部屋に入れた。

 八畳くらいの畳の部屋にシングルベッドと小さなテーブル。

 背の高さぐらいの本棚。

 床から積み上げられたマンガ雑誌の山と散らかった服。

 小さな台所と狭い板の間のダイニング。

「一人暮らし…なの?」

 瀬戸くんの家はお金持ちだって聞いた事がある、会社を経営していてお父さんは社長だったはず…。

「あぁ…この方が色々楽だから」

 私は靴を脱いで上がった。

 目に飛び込んで来たのは玄関先に置いてある大きな紙袋が二つ。

 一つは色々と食べ物が入っている。

 もう一つはキレイに畳まれた服が入っていてその上に白い封筒が乗っていた。

「あの…これって…」

「あぁ…母さんが持ってきたんだろ」

 瀬戸くんは白い封筒を持ち上げると中身を抜き取った。

 チラッと見えたのは一万円札が数枚。

 高校生が持つにはとてもじゃないけど多すぎる金額だった。

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