『いつかの夏へ』
9

「…やっぱバカだろ」

「バ、バカじゃないし…だって…あんな…キ、キスとか…」

 鼻で笑われた事が悔しくて言い返したかったのに言葉にならない。

 うまく言葉に出来なくて鼻の奥がツーンとする。

 ジワッと視界がぼやけてきて顔に力を入れた。

「好きって言っただろ。付き合ってよ」

 滲んだ視界で見た瀬戸くんの顔は少し赤かった。

 そしてあの瞳で真っ直ぐ見つめていて、その瞳の中には瀬戸くんを見つめる私の姿が映っていた。

「どうして…私?」

 嬉しいよりも信じられないの方が強くて素直に喜べなかった。

(からかってる…?)

 だから聞きたかった。

「ぶたのキーホルダーの時も缶を開けられない時も一緒に走って逃げた時も…すげぇ可愛かった」

 もう心臓は狂ったように鳴り続け呼吸まで苦しくなってきた。

 男の子に可愛いと言われたのは初めてだった。

 男の子に好きって言われたのも初めてだった。

「俺達…運命だと思わねぇ?」

「運…命?」

「そう。お前は俺の女になるために生まれて来たんだよ」

 自信たっぷりに言って笑う姿が眩しかった。

 こんなに輝いてる人を見たのは初めてだった。

「それに…お前も俺のこと好きだろ?」

 すっかりバレていた。

 いつから気付かれていたとかなんて返事しようとかそんな事が頭の中をグルグルして気が付いたら全身真っ赤にして俯いていた。

 俯く私は瀬戸くんに抱きしめられた。

 まるで壊れ物に触れるように優しく包み込まれた。

「今日から俺の女だからな。離れるなよ」

 二人の運命の歯車が噛み合って動き出した瞬間だった。

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