『いつかの夏へ』
8

「おまえ部活は?」

 いきなり関係ない話を振られて私に呆れられてしまったと思った。

 急激に熱が冷めていく。

「やってない…」

「じゃあ、放課後屋上」

 それきり顔を伏せて寝てしまった。

 何が何だか分からなかった。

 瀬戸くんは私の左手を握ったまま授業が終わるまでそのままだった。

 私は眠る事も体を動かす事も出来ずにただぼんやりとスクリーンを眺めているだけだった。

 けれど映画の内容はまったく頭には入って来なかった。

 授業が終わって奈央達にカラオケに誘われていたけれど断って屋上に行った。



(そう言えば…初めてかも)

 一度も屋上に入った事がないんだと気付きながら瀬戸くんを探す。

 キョロキョロと見渡していると隅の方でタバコを吸っている姿を見つけた。

 ドキドキしながら近づく。

「タバコ?」

 分かりきってるのに持ってるタバコを指差した。

「センセーに言う?」

「言わない」

 即答した。

 何かをチクるとかした事はなかったし、したいと思わなかった。

 瀬戸くんはクスッと笑ってタバコを地面に押し付けると入り口の小さな屋根の上に放り投げた。

「で、さっきの話分かった?」

 私は首を横に振った。

 分からないわけじゃなかったけど信じられない気持ちが強かった。

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