『いつかの夏へ』
7

 ゆっくりと顔が離れた。

(暗くてよかった…)

 ぼんやりする頭でそんな風に思った。

 きっと今のは私の顔はすごく間抜けで恥ずかしい顔をしている。

「俺…好きな女しか単車に乗せねーんだ」

 真っ直ぐ見つめられた。

 掴まれている左手がギュッと握られた。

(どういう意味なんだろう?)

 私は意味が分からなくて首を傾げると瀬戸くんの小さな舌打ちが聞こえてきた。

「おまえバカ?…俺の女になれって」

「へ?…女?」

 近づきすぎているせいか話す度に熱い息が頬に掛かる。

 話はちゃんと聞いているのに掴まれた手と息の触れる頬の熱さばかりが気になって理解出来ずにいた。

 今度はハァーッと少し長いため息が聞こえる。

(バカ…は置いといて…女?…俺の女って…)

 頭の中で言われた言葉を解析しようとするとまるで読まれたように瀬戸くんが先に答えを言った。

「好きだ」

「誰が?」

「俺が」

「え?誰を?」

「お前しかいねーだろ」

 間抜けな会話だった。

 けれど私には精一杯だった。

 手を握られキスをされバカと言われ俺の女になれと言われ…そして好きと言われた。

 それもすべて好きになった相手からだった。

 私の頭は爆発寸前の所まで来ていた。

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