『いつかの夏へ』
3
ストローをのばしてパックに突き刺した。
「キャッ!!」
パックを握っていたのか中身が飛び出して顔に掛かった。
「アハハッ!!だっせぇーー!」
瀬戸くんは吹き出して笑い始めた。
よっぽどツボに入ったのか腹を抱え上体を折って笑っている。
顔に掛かったジュースを拭いながらムッとした。
「笑いすぎっ!!」
ものすごい大きな声を出してしまった。
驚いたのか瀬戸くんは笑うのを止めてキョトンとした顔をしている。
「あ…あは…もしかして怒った?」
私は返事をせずにそっぽを向いた。
(怒ったというより恥ずかしい…)
体が熱くなるのを感じながらストローを咥えた。
「あー…ごめん。笑いすぎた」
(今さら遅いし…)
格好悪いところを見られた恥ずかしさから顔を向けられずにいた。
「なぁ…真子。マジでごめんって」
「えっ?」
思わず振り向いた。
聞き間違いじゃない、絶対に名前を呼んだ。
「今…名前呼んだ?」
「え?あぁ…真子じゃなかった?」
「あ…うん。真子だけど…そうじゃなくて名前…苗字じゃなくって…」
家族以外の男の人から初めて下の名前を呼び捨てにされた。
それはたとえ自分の名前がどんなにダサい名前でもきっと誰でもドキッとするはずだ。
だが突然何を言い出したのかと瀬戸くんは不思議そうな顔をしている。
「苗字?…って何真子か知らないし」
(あ…そういう事か)
確かに同じクラスになった事がなければ苗字を知らなくても当たり前かもしれない。
名前は初めて会った時に中尾くんがバラしたのを思い出した。
「柏木…柏木真子」
初めて自己紹介をした。
なぜかそれもすごくドキドキして胸が苦しくなった。
「柏木、柏木っつーんだ。分かった。じゃあ俺行くわ」
そう言って瀬戸くんは歩き始めた。
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