『いつかの夏へ』
2
「おーい!誰かいるのかぁ?」
今度こそ本物の先生の声がした。
私達は慌てて片付けると走って教室から飛び出した。
「アッ!おいっ…コラッ!待て!」
「逃っげろー!」
中尾くんは楽しそうにはしゃぎながら奈央の手を掴んで走り出した。
「走れっ!」
瀬戸くんは短く叫ぶと私の手を握って走り出した。
階段を駆け下りてスリッパのまま外へ飛び出した。
息が切れて胸が苦しくなっても走った。
走っている間斜め前を走る瀬戸くんがすごく楽しそうでイキイキしている顔が印象的だった。
(ずっと眺めていたい…)
引っ張られて走りながらそう思った。
「ハァハァ…ッ…もう大丈夫かな?」
途中で奈央達とは離れ離れになってしまって私達はグランドの端のテニスコートにいた。
「あっちー…」
一年の頃から少しのびた髪をかき上げながらジャージをパタパタさせている。
少年から少し大人っぽくなったように見える。
「喉乾いた。ジュース買ってくるわ」
口調は相変わらずぶっきらぼうだった。
返事をするよりも早く瀬戸くんは歩いて行ってしまった。
私は校舎から見えない位置に移動してフェンスにもたれるように座った。
「おっきぃ手…」
握られていた手にまだ瀬戸くんの手の感覚が残っている。
急に心臓がドキドキし始めた。
もう息は整っていたけれどこの胸のドキドキの正体が何なのかすぐに分からなかった。
突然目の前にパックのジュースが現れた。
顔を上げるとストローを咥えている瀬戸くんが立っていた。
「ん…」
「え?私にも?」
「喉渇いてねぇ?」
「あ…うん。乾いたかも…」
私は素直に受け取った。
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