『いつかの夏へ』
8

(やっぱり不思議な人)

 中尾くんと比べると無口で愛想がない。

 けれど話しかければちゃんと答えてくれる。

 ぼんやりとしているとジュースを飲んでいた瀬戸くんが自販機にお金を入れた。

(おかわり…かな?)

「金ないの? 好きなの飲んだら?」

 そう言ってまたフェンスにもたれかかった。

 財布はポケットに入っていたけれどなんだか言い出すのを止めてしまった。

 ためらって自販機の前に立った。

「ありがとう…」

 飲むつもりだったリンゴジュースのボタンを押した。

 ほんとうに口数の少ない人だった。

 どこを見ているのかよく分からないけどぼんやりと空を見上げてジュースを飲んでいる。

 カシンッ、カシンッ

 缶をうまく開けられず何度も乾いた音がした。

「貸して」

 自分のジュースを口に咥えた瀬戸くんは私の手から缶を取った。

(さっきも思ったけど大きな手)

 男の子の手はこんなに大きいのかなぁとぼんやりと眺めているとカシュッと簡単に開く音がした。

 無言でジュースを返された。

「ありがとう」

 受け取ると口を付けた。

 それから二人はジュースを飲み終わるまで黙ってそこにいた。

 これが私と雅樹が初めて言葉を交わした日の出来事。

 でも恋という名前がつくのはもう少し後の事。

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