『いつかの夏へ』
7
瀬戸くんはドサッと座った。
狭くて座った瞬間肩が触れてドキッとした。
けれどもう横にずれる事は出来なくて肩がずっと触れ合ったままどうする事も出来ずジッとしていた。
(これ…罰ゲーム?)
こんなに居心地の悪いのは初めてだった。
瀬戸くんが怖いとか嫌とかそういうわけではなく同い年の男子とこんな風に触れ合う事は初めてだったからだ。
「おまえ歌わねぇの?」
いきなり声を掛けられた。
もっと気の利いた返事が出来れば良かったと後悔するほどその返事はお粗末だった。
「えぇ…はい」
それきり瀬戸くんは何も喋らなくなった。
(あぁ…無理)
どうにも耐えられなくなってジュースを買ってくると外に出た。
自動販売機の前で大きくため息を吐く。
「ほんと…緊張するんだけど…」
みんなは楽しそうにバカ騒ぎしているけれど私はジッと座ったまま騒ぐ事も出来なかった。
隣の瀬戸くんも歌う事も騒ぐ事もせずただ座っているだけだった。
(変わった人だなぁ…)
「迷ってんの?」
「ウワァッ!」
突然後ろから声を掛けられて飛び退いた。
振り向かなくても誰か分かっている。
今日初めて喋ったのにこんなに次から次へと顔を合わすなんて信じられない。
(今日は瀬戸雅樹デー?)
そう思いながらゆっくり振り向いた。
「さっきから待ってんだけどまだ決まらない?」
「あ、ぁ…お先にどうぞ」
私は横によけると瀬戸くんに譲った。
瀬戸くんはポケットから小銭を出して買うと自販機横のフェンスにもたれながら炭酸のジュースを飲み始めた。
「あ、あの…戻らないの?」
カラオケボックスの方を指差した。
「カラオケ興味ないし」
(じゃあなんで来たの??)
友達と騒ぐ…というイメージからはかなり遠い感じはする。
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