『いつかの夏へ』
4
少しボーッと立っていたがハッと気が付いて時計を見る。
(カラオケッ!!)
慌てて階段を駆け下り三階から二階への踊り場でクルッと体の向きを変えた。
曲がった途端視界に入った姿に足を滑らせた。
「ウワッ…」
滑り落ちそうになって慌てて手摺りに掴まった。
その原因となった人物を見つめる。
階段を下りたすぐ横の壁にもたれているのは瀬戸くんだった。
(あ、あれ…何やってるんだろう)
私はドキドキしながらなるべく視線を合わせないようにゆっくりと階段を下りた。
見ていなくてもこっちを見ているのは気配で感じる。
私は軽く頭を下げてそのまま一階へ降りようとした。
「ねぇ…ぶた」
(ぶたぁ!?)
それは明らかに瀬戸くんの声だという事は分かっている。
けれどどうして自分がぶたと呼ばれなくてはいけないのか分からない。
(ま、まさか…私じゃなくて誰か違う人に…)
足を止めて周りを見渡した。
だが誰も居ない。
(それじゃ…大きな独り言だ)
うんうんきっとそうに決まっていると心の中で頷いた後そんなわけないだろっ!と自分で突っ込んだ。
「ねぇ…このぶた」
(またぶたって言った!?)
さすがに二度も言われると気分が悪い。
頭に来た私は振り返ると瀬戸くんがどんな人かという事も忘れて声を張り上げた。
「確かにちょーっとポチャっとしてるかもしれないけど、あなたにぶ、ぶたって言われる覚えはないんですけどっ!!」
興奮しすぎて最後の方は声が掠れてしまった。
瀬戸くんはジッと私の顔を見ている。
そして何も言わずに一歩ずつ近づいてくる。
「エッ…」
思わず逃げ腰になって私も一歩ずつ後ろに下がり始めた。
(あれ…?もしかして怒らせた?)
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