『君の隣』
 第三章 P10


「おーまーえー!気分が悪いんじゃなかったのか!」

 真っ赤な顔をした祐二は怒り心頭といった感じだ。

「気分は悪いよ…」

「じゃあどうしてそういう事してんだよっ!大人しく寝ろよっ!」

 まだ自分の頭にぶら下がるようにしている貴俊をベッドに押さえ付けた。

 ギシッとベッドの軋む音がする。

(心配した俺がバカみてーだ!)

 祐二は腕を組みながら貴俊を睨みつけた。

「電車の中で隣の女の人の事ばかり見てたよね」

 貴俊の声色が変わった。

 さっきまで優しい微笑を浮かべていた顔もまるで温度を感じない蝋人形のようなさめた表情をしている。

(隣の女の人?…なんでそんな話が今出てくんだよ)

 まったく話の流れが掴めずに困惑の表情を浮かべた。

「あーいう人が好きなの?」

 思ってもみなかった貴俊の言葉に祐二は耳を疑った。

 何の冗談?と思った祐二だったが貴俊の表情を見てそんな考えはすぐに打ち消された。

「別に好きとかじゃなくて…」

「気持ち良さそうな顔してたのもあの人が居たからだったりしてね」

「バカッ!あれはお前が…」

「俺が…なに?」

 それ以上言葉が続かなかった。

 言ってしまったら電車の中での行為が気持ちよかったと認めてしまうみたいで出来なかった。

「頬を染めて瞳を潤ませながらあんな可愛い声だしてさ…もう先っぽがヌルヌルしてたね」

 貴俊が声を潜めて囁いた。

 祐二は体温がカーッと上がるのを感じた。

(何だよ…気分が悪いのか怒ってんのかどっちだよ)

 貴俊の手が伸びて祐二の唇を愛撫するように親指でなぞった。

 キッと唇を結んでいた祐二は「ハァ」と熱い息を吐きながら唇をわずかに開いた。

「俺にされてる時何考えてた?」

「な、何って…」

(昨日の事思い出してたなんて恥ずかしくて言えるかよ…)

 動揺した祐二が口ごもった。

 貴俊は下唇をなぞっていた親指をグッと祐二の口の中へ押し込んだ。

「んぅ…」

 祐二がわずかに声を出した。

「俺が触る前から少し大きくなってたよね。隣の女の人でなんかやらしい妄想でもしてた?」

 かなり奥まで押し込まれた指で返事の出来ない祐二は首を横に振った。

 口内の親指はまるで舌のようにしなやかに動いた。

 祐二の舌を弄ぶように動かす度に開いた唇からはクチュクチュと淫らな水音が漏れる。

「じゃあ何?何が祐二を気持ちよくさせてたの?」

 聞かなくても分かっているはずだった。

 貴俊としか経験のない祐二にとっては貴俊との行為が一番自分の体を熱くさせるのだから。

 祐二はこれ以上逃げられるわけもなく静かに頷いた。

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