『君の隣』
 第三章 P11


 ようやく貴俊の顔が満足そうな微笑みに変わる。

「また膨らんできたね」

 言葉通り膨らみかけた股間を貴俊は指で突付いた。

 自分でも分かっている事をあえて口にされた祐二は恥ずかしそうに顔を逸らした。

 ここまで来れば貴俊が何をしたいのか鈍い祐二にも分かった。

 気分が悪いなんて口実で本当はこうやって二人きりになる為に…。

(このやろ…人の気も知らねぇで…)

 騙されたことに対する怒りが沸々と沸いてくる。

「祐二、電車の続きしよっか」

「……よ」

 貴俊は祐二の口から指を引き抜いた。

 祐二は拳を強く握り締めて俯くと震える声で呟いた。

「祐二?」

「ふざけんなよっ!お、俺のせいで気分が悪くなったのかと思って本気っ…で…心配したのにっ…」

 最後の方は込み上げてくる嗚咽を我慢したせいか上手く言葉にならなかった。

(いつもお前ばっかり余裕で俺は…)

 貴俊の顔が辛そうに歪んだ。

「…だからごめんねって言ったんだよ。でもこうでもしないと祐二は逃げ出そうとするでしょ」

 貴俊の言葉は間違っていなかった。

 いつもは貴俊の部屋なのにそれ以外だなんて祐二にはありえない事だった。

 それでも貴俊がいつものように誘ってくれたら…。

「別に俺は逃げて…ねぇ…」

「じゃあ…ベッド上がって俺を跨いで?」

 祐二は黙ったまま俯いている。

 けれどどんなに頑張ってみても貴俊の言葉に抗うことは出来ない。

 祐二は上履きを脱ぐとベッドの上に上がった。

 ノロノロと貴俊の足を跨ぐと太ももの上にストンと腰を下ろした。

「ほら、顔見せて?」

 最初は首を振って抵抗をした祐二だが貴俊の手が頬に添えられるとまるで魔法が掛かったように顔を上げた。

 怒りと悔しさからか祐二は涙目になっていた。

「可愛い」

「か、可愛いって言うな!」

 祐二が噛み付きそうな勢いで怒るのを見て貴俊の頬が緩む。

 どんなに嫌がったり怒ったりしても本当に嫌がってるわけじゃないと貴俊には分かっていた。

 怒ったり嫌がったりする事で恥ずかしさや照れくささを誤魔化しているんだと思えばその行為すらも可愛く見える。

「可愛い。涙目になってる祐二を見てるともっと泣かせたくなる」

 貴俊の手がそぅっと祐二の頬を撫でる。

(勝手な事ばっかり言いやがって…)

 それでも色っぽい貴俊の表情に心拍数が上がった。

 貴俊の言葉や仕草はまるで魔法のように体の自由を奪った。

 今も頬を撫でられ見つめられているだけなのに熱い吐息を漏らしている。

「キスしよっか。口開けて、祐二」

 それは甘い言霊。

 祐二の口がゆっくりと開いて二人の唇が重なった。

 朝の静かな保健室には似合わない音が聞こえ始めた。


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