『君の隣』
 第一章 P5


 貴俊が門扉を開ける横を祐二は黙って通り過ぎようとした。

「祐二DVD買ったって言ったでしょ?」

 何それ…。

 俺に声を掛けなかったのは見るに決まってるからって事?

「日和誘ってたじゃん」

「それはまた今度。ほら…」

 貴俊は門扉を開けたまま祐二が入ってくるのを待っている。

 鞄を肩から斜めに提げて両手をポケットに突っ込んでいる祐二は渋々といった表情で戻った。

「お前が言うから仕方なく、だからな…」

「はいはい」

 憎まれ口を叩きながらも大人しく家に入る祐二の態度に貴俊は苦笑を浮かべた。

「祐くん、おかえりー。ケーキあるけど食べる?」

「イチゴのってるー?」

 貴俊の母親とケーキの箱の中を覗き込んでいた祐二は首だけ回して貴俊を見た。

「チーズケーキ?」

「うん」

「やっぱりな!」

 俺はお前の事は何でも知ってるんだ!と子供のような自慢気な態度に貴俊は思わず笑った。

 ケーキとコーヒーを乗せたトレイを危なっかしい手付きで持つ祐二の前に貴俊がスッと立った。

「俺が持つよ」

「バカッ!俺だってこれくらい持てる!」

 子供扱いされるのが嫌で胸を張った途端トレイの上のカップが揺れて中身のコーヒーが少しこぼれた。。

 バツの悪そうな顔をした祐二は貴俊の顔を見上げた。

「俺の鞄も持って行ってドア開けてくれる?」

 今度は大人しくトレイを差し出すと貴俊の大きな手で頭を撫でられた。

「何してんだよ?」

 きょとんとした顔の祐二がトレイを差し出すと含み笑いを浮かべて受取った。

 何だ?変な奴だな。

 祐二は貴俊の鞄を持つと階段を軽い足取りで駆け上がった。


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