『君の隣』
 第一章 P29


 グイグイ手の甲で涙を拭うと真っ赤になった目で貴俊を睨みつけた。

 貴俊は真っ直ぐ自分に向けられた祐二の視線に困ったように額に手を当てた。

「もう無理かな…」

 祐二は自分の耳を疑った。

 拭ったはずの涙は再び頬を伝った。

 “もう無理かな”最後通告のようなその言葉が祐二の頭の中でこだました。

「何っだよそれっ!無理ってどういう意味だよっ!」

 今までずっと一緒に居たくせに急にそんな事を言い出す貴俊が理解出来なかった。

「俺の事嫌いなんでしょ?」

「そんな事今まで何度も言って来ただろ!何で急にそんな事言うんだよ!」

 祐二の声が掠れる。

 無意識のまま自分の胸の内を吐き出している。

「祐二の嫌がる事はしたくないから」

「じゃあ俺の側にいろよ!女と帰ったりすんなよっ!」

 貴俊は祐二の言葉を聞くと思わず笑ってしまった。

 それを見た祐二は頭にカッと血が昇って立ち上がった。

「何で笑うんだよっ!またバカにしてんのかっ」

「祐二…自分の言った意味分かってる?」

 祐二は気持ちが治まらないみたいで鼻息荒くしながら貴俊の顔を睨みつけている。

「何で俺に側にいて欲しいの?」

「今までだって側にいただろっ!」

 分かりきった事を聞くなと言わんばかりの口調ですぐに切り替えした。

「全然分かってない…自分で気付くまで待ってようと思ったけど無理っぽいね」

「何訳分かんねぇ事言ってんだよ!」

 貴俊はたまりかねて祐二の腰に腕を回すと強引に引き寄せた。

 うわぁっ!

 自分の体がフワリと浮いて慌てて腕をバタつかせたが次の瞬間には貴俊の膝の上に抱えられていた。

「ばっ!離せって!離せってくぉらぁ!!」

 力の限りもがいてみるものの貴俊の鍛えられた上半身に敵うわけもなくあまりにも暴れたので最終的には腕ごと抱えられてしまった。

「とにかく落ち着いてよ。そんな大声出したら迷惑だよ?」

 祐二は貴俊の優等生発言にフンッとそっぽを向いたが、貴俊の手によって顔が戻された。

 近いって…。

 横向きに抱えられているので身長差のある祐二の目の前に貴俊の顔があった。

 また顔近付けられたら俺…。

 それにこの格好ってなんか変だって。

 少し冷静になって自分の格好を見てみれば貴俊にすっぽりと抱かれてまるで女の子のようだ。 

「俺が女と帰ったら嫌なの?」

「………」

 改めて聞き直されると答えにくくて口をもごもご動かした。

 だが真剣な表情の貴俊に負けて小さく頷いた。

「どうして?」

 理由なんかあるか嫌なもんは嫌なんだから。

 祐二は説教されている子供のように貴俊の膝の上で小さくなっている。

「自覚がないみたいだから教えてあげるね。」

 貴俊は少し嬉しそうに笑った。

 また俺に頭がいい事を見せつけようとしてんだろー。

 祐二は嫌そうな顔をしたが貴俊は言葉を続けた。

「俺が女と帰ったら嫌なんだよね?」

 また聞くのか?と思ったけれど黙って頷いた。

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