『君の隣』
 第一章 P28


 祐二は気持ちを落ち着かせる為に貴俊に背を向けた。

 男のくせになんつー色っぽい顔してんだよ。

 こんな所でフェロモン垂れ流しにしてんなー!

 まだドキドキとする胸を拳で軽く叩いた。

「祐二…?」

 ドッキーーンッ!

 貴俊の声が耳のすぐ後ろでする。

「話はもういいの?」

 答えられずに下を向いた。

「何してたか…知りたいんでしょ?」

 祐二はその言い方にギクッとした。

 やっぱりあの後何かしてたんだ…。

「いい機会だしちゃんと話すよ…」

 祐二は体を強張らせた。

 いい機会?

 ちゃんと話す…?

 な、何を話そうとしてるんだよ。

 祐二は背筋がスーッと冷えるのを感じた。

「俺はさ…」

 貴俊の声が聞こえて手をギュッと握り締めた。

 どうしよ…俺…これ以上聞きたくないかも。

「もう…いい」

 祐二は小さな声で呟きながら頭を横に振った。

 何故だか分からないけど貴俊の話をこれ以上聞いてるのは出来そうもなかった。

「祐二が聞きたいって言ったんだよ。ちゃんと聞け」

 貴俊の咎めるような口調にフルフル頭を振った。

「祐二!」

 急に大きな声を出されて祐二は体をビクつかせた。

「聞きたくない」

「俺は話すよ…ちゃんと話さないとよくないから…」

 強い意志のこもった声。

 何で急に話そうとするんだよ!

 さっきまで話し誤魔化してたくせに急に自分から話さないとよくないとか意味分かんねー。

 俺は聞きたくないって言ってるのに。

「祐二、俺さ…言おうと思ったてたけど」

 ドクン、ドクン…

 嫌だ…。

 嫌だってば。

「前から…」

「聞きたくないっ!」

 祐二は振り返ると両手で貴俊に口を塞いだ。

「言うな、言うな、言うなーっ!」

 急に子供のように喚き始めた祐二を驚いた顔をして貴俊は見ていたがゆっくりと祐二の手をどかした。

「祐二どうしたの?」

 祐二は貴俊の言葉も聞かずに首を激しく振ってその場から逃げ出そうとした。

「離せっ!お前なんか嫌いだー」

 喚きながら大粒の涙を流している祐二を見て貴俊は思わず手を離した。

「何で…泣いてるの?」

 ジッと自分の顔を不思議そうに見ている貴俊に気付いて頬に手を伸ばすと指先が濡れた。

 何で…俺泣いてんの?

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