『君の隣』
 第一章 P30


「それを別の言い方をするとなんて言うか分かる?」

 祐二は何も思いつかなくて首を傾げた。

「独占欲」

 あぁなるほどと祐二は素直に頷いた。

「独占欲って意味分かる?」

「ひとりじめしたいって事だろ?」

 祐二は胸を張って答えた。

 そんな祐二を見て貴俊は満足そうに頷いた。

「じゃあ祐二はどんな時独り占めしたいって思う」

 まるでクイズのような質問の仕方に祐二は夢中になって貴俊の話に耳を傾けていた。

 俺が独り占めしたい時って…。

「夕飯で好きなおかずが出た時!」

「好きなおかずってコロッケだよね?」

 祐二は嬉しそうにニカァと笑って頷いた。

「夕飯にコロッケが出ると琴子ちゃんにも取られたくないって思うんだ?」

「そう!お前も知ってんだろ?母さんのコロッケめちゃうまだろ?」

 祐二があんまり嬉しそうに言うので貴俊も笑って頷いた。

 それを見て祐二も満足そうに頷いた。

「じゃあ話を整理しようか」

 あれ?そう言えばなんでコロッケの話になったんだっけ。

 不思議に思いながら祐二は次は何を言うんだろうと貴俊の言葉を待った。

「独占欲は独り占めしたいって事だよね。祐二が独り占めしたいのは?」

「コロッケ?」

「そう。コロッケに対して独占欲を持ってるわけだ。その理由は?」

「コロッケが好きだから」

 まるで授業中の生徒と教師のようになってきた。

「俺が女と帰って欲しくないって事は…独占欲」

 祐二はふむふむと聞き入っている。

「独占欲は独り占めしたいって事だったよね」

 ちょっと待って…。

 このまま言ったら俺って…。

 妙な話の展開に祐二は目を泳がせ始めた。

「って事は俺を独り占めしたいって事なわけだ。」

 ここまで来て貴俊はニヤリと笑って祐二の顔を覗きこんだ。

「独り占めしたい理由は何だったっけ?」

 答えは分かっているのに答えられない。

 祐二は思わず口をギュッと閉じて弱々しく首を横に振った。

「分かるまで何度でもコロッケの話してあげようか?」

 答えから逃げようとする祐二は徐々に追い詰められていく。

 祐二は縋るような思いで貴俊を見た。
「ダメだよ。ちゃんと答えて。独り占めしたい理由は?」

 言わないと許してもらえなさそうな雰囲気に祐二は唇を噛んだ。

 ここまで来たら我慢比べだ。

 二人共一歩も引かずに長い沈黙が続いた。

 頑なに口を閉ざす祐二を見て貴俊はさすがに困ったように笑った。

「祐二は頑固だなぁ…」

 貴俊の方がお手上げと言った感じで先に口を開いた。

「じゃあ聞き方変えるね?俺はコロッケ?」

 聞いている貴俊は少し嫌そうな顔をしている。
 
 しかし祐二にとってはこの質問だってさっきと何ら変わらないからすぐには答えられない。

 これ答えたら…俺が好きなのは…で、って事は俺は男が…。

「祐二が答えてくれたら俺は嬉しいよ」

 ウジウジと悩む祐二の後押しをするように貴俊が言った。

 祐二は顔を上げると自分を見つめる優しい瞳と目が合った。

 俺…この目が好きだ。

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