『君の隣』
 第一章 P24


 ま、また達かされた。

 二人で学校へ向いながら祐二は落ち込んだ。

 しかも今日もすごい気持ちが良くなった自分がいる。

 そ、それに…キスまでした。

 夢に出て来たような可愛げのあるキスじゃなくて、もっとベロベロとやらしいキスだった。

「あ、あのさ…」

 気まずかったけれど祐二は思い切って聞いてみた。

「何で…キスしたんだよ」

 貴俊は少し考えてから微かに微笑んだ。

「理由がないといけないのか?」

「だ、だって可笑しいだろ。お、俺達男同士なのに…き、キスなんか…」

 祐二は恥ずかしくてあさっての方を向きながら喋っていた。

 貴俊は祐二の言葉に足元に視線を落とした。

「でもあの時キスしなかったら祐二の声が漏れてバレてたかもしれないよ?」

「そ、それだけの為にキスしたのかっ!?」

 祐二は思わず声を荒げた。

「それ以外の理由がいるのか?」

 え…それは…。

 思わず口篭る祐二。

 だって声が漏れないようにするなら手で押さえればいいのに、それにあんな風に舌とか絡めなくても…。
「どうした?」

「な、何でもねぇよ!」

 別にキスが初めてってわけじゃないけど…。

 あんな濃厚なキスをしといてただ声が漏れないようにとかそんなの…。

 もっと違う…意味があるのかなって思ったのに…。

 肩透かしを食らったような気分だった。

 今朝あんな事があったせいで肝心な事を忘れていた事に気が付いたのは夕方だった。

 部活を終えて貴俊を探していた祐二は校内をウロウロしていた。

 弓道場に居ないって事は帰ったのかなぁ?

 祐二は下駄箱へ向ったが貴俊の靴はまだ入っていた。

 あっ!生徒会室?

 今日は絶対謝るんだ。

 今朝は何か普通に話せたけどやっぱりあんな事言って謝らないってのも後味悪いからな。

 妙に晴れ晴れとした気持ちになって祐二は生徒会室へ急いだ。

 だがすぐに貴俊の姿が見えて駆け寄ろうとしたがすぐに足を止めた。

 一人じゃなかった。

 この前の女子と一緒でしかも楽しそうに笑っている。

 この前妹が見たのもあの女子だったりするのかな。

 こんなに近くにいるのに貴俊が自分の事に全く気付いていないのがたまらなく悔しかった。

 祐二は貴俊に気付かれる前に体の向きを変えて急いで学校を出た。

「くそっ…何だよアイツ!」

 帰りながらブツブツと呟いた。

「女の前ではあんな不抜けた顔しやがって」
 
 あんな風に笑ったりすんじゃねぇよ。

 今朝俺が痴漢に遭ったばかりなのに一人で帰したら心配だなとかそういう事思うんじゃねぇの?

 それなのにあんなに女と楽しそうに…。

「貴俊のバーカ」

 いくら貴俊の悪口を言っても祐二の胸の痛みが消える事はなかった。

 それどころか時間が経つにつれてどんどんと胸の息苦しさはひどくなっていった。

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