『君の隣』 第一章 P21
昨日はあのまま家に帰って来た。
今日も休んだ。
とても学校へ行く気分になれなかった。
また電車に乗って痴漢に遭うのも嫌だったし貴俊の顔も見れそうになかった。
どうして突然こんな風になったんだろう。
祐二はベッドの中でぼんやりと考えていた。
コンコン−
「貴俊だけど入るよ」
え?予想もしてなかった訪問者に祐二の心は少し明るくなって、少し緊張感が走った。
ドアが開いて貴俊が入って来たが貴俊は祐二の方に見向きもしなかった。
「昨日と今日のノートのコピー。来週小テストあるらしいから」
祐二の思いとはうらはらに貴俊は淡々と用件だけを伝えている。
貴俊は持っていた紙を机の上に置くとすぐに体の向きを変えて出て行こうとした。
え…っ?
「あ、あのさっ!」
祐二は慌てて声を掛けた。
「ひ、日和は元気か?」
唐突な質問に貴俊は振り返って不思議そうな顔をしたが黙って頷いた。
「お、俺の事何か言ってた?」
「心配してた。休むのは珍しいから」
話しかければ返事をしてくれるけれど表情を全く変えない貴俊を見て祐二は泣きそうになっていた。
何でそんな冷たいんだよ。
大丈夫か?とか…もっとなんかあるだろ?
「じゃあもう行くよ」
会話が続かなくて貴俊は帰ろうとする。
「ま、待てよ!どうせ暇だろ?もう少しいろよ!」
「具合悪いなら寝てたら?」
まるで突き放したような言い方に祐二はショックを受けた。
「も、もうだいぶ良くなったし…」
祐二は自分でも分からないくらい必死だった。
今はとにかく貴俊に帰ってほしくないその気持ちでいっぱいいっぱいだった。
「でもまだ顔色良くないし寝てた方がいいんじゃない?」
まるで感情がこもっていない声音にギュッと手を握り締めた。
「じゃ、じゃあ…俺が寝るまで…」
言ってから恥ずかしくなった。
まるで女みたいなセリフだ。
しかも祐二はベッドから身を乗り出して貴俊のブレザーの裾を掴んでいた。
「分かった」
貴俊は諦めたように返事をしてベッドの側に腰を下ろした。
祐二は貴俊が側で座るのを確認するとホッとしたように目を閉じた。
久し振りに貴俊が側に居る安心感と昨夜一睡も出来なかったせいもあってか祐二はすぐにふわふわと夢の中へと入っていく。
目を閉じて少し経つと静かに寝息が聞こえて来た。
貴俊は少しホッとしたように微笑むと祐二の髪を撫でた。
「貴…と…しぃ」
寝言なのか祐二が自分の名前を呼ぶのを聞いて目を見開いた。
「祐二…」
貴俊は膝立ちになると祐二の顔を見つめた。
「好きだよ」
貴俊はゆっくりと眠る祐二の唇にキスをした。
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