『君の隣』 季節『ある夏の一日'09』 P4 side貴俊
(まぁ、分かってたけどね……)
二人でやるスポーツなのだから俺と祐二と組みたかったのが本音、でも子供のようにはしゃぐ二人を前にしたらそんなことも言い出せず応援に回ったのはいいけれど……。
圧倒的な実力の差に、ゲームは最初から相手チーム優勢に進んだ。
二人ともサッカー部所属、佐藤は一年の頃からレギュラーだし祐二はサボリ癖があるけれど運動神経はそこそこいい、何より二人とも高校生なのだから体力と俊敏性は上をいくと思っていた。
だが相手の方が一枚上手としか言いようがない、足を取られやすい砂浜の上での動きに慣れていない二人はいいように遊ばれていた。
「くっそぉぉぉぉっ!」
また相手方のスパイクが決まり、祐二の悔しそうな声が聞こえる。
けれどその声を掻き消す黄色い声援には思わず耳を塞ぎたくなった。
まるで有名人でもいるような人だかり、その八割が女性でその九割九分が相手チームの応援。
ほんの一握りの人達が「可愛い男子高校生」に微笑ましい声援を送っていた。
「このままじゃ、五分も掛からず終わっちゃいそうだなぁ?」
「なんだとぉ……」
「せっかくギャラリーもこんなにいるんだから、楽しませてあげたいしもっと頑張ってくんないと」
すでにダブルスコアで結果は目に見えていたけれど、祐二のイイ所は負けず嫌いで諦めないところ。
案の定、相手の挑発にしっかり乗っかって、「絶対、ブッ潰す!!」と啖呵を切って周りを喜ばせた。
(勝って欲しいな)
利用料がタダになろうが、食事券が三千円分貰えようが、そんなことはどうでも良かった。
ただ祐二があんなに楽しそうに飛んだり跳ねたりする姿は可愛いし、悔しそうな顔も可愛いけれどやっぱり勝って喜ぶ祐二の笑顔を見たい。
本当なら自分がその笑顔を引き出したいけれど、素直じゃない祐二からそれを引き出すのはこのゲームで勝つよりも難しい。
「……ウァッ!」
相手チームの強力なサーブを受け止めた祐二だが、パワーに負けてレシーブしきれず弾かれたボールは勢いを殺せないまま後方に飛んでいった。
何重にも重なったギャラリーの生け垣を越えたボール、祐二はそれを追いかけて掛け出した。
「ねぇねぇ……あの子、可愛いね?」
「高校生だよね? 色仕掛けで迫ったらコロッといっちゃうんじゃない?」
「やぁだー、もう!」
祐二が通り過ぎた後に女子大生だろうか、見るからに魅力的な水着姿の二人組がクスクスと言葉を交わした。
(本当にコロッといくから困る……)
男と付き合っているからといっても祐二はゲイじゃない、女の子と付き合った経験だってエッチの経験だってあるし、今だって可愛い女の子を見れば目で追うのは当たり前。
こんな派手で遊んでそうなお姉さんに声を掛けられたら、頭をポーッとさせて尻尾を振ってしまうのは……認めたくないけど間違いないわけで……。
(祐二を魔の手から守らないと)
すぐ側にいる二人組に宣戦布告の視線を投げつけたが、肝心の祐二がちっとも戻って来ないことに気が付いた。
もしかしたら違う場所で派手なお姉さんに捕まったかもしれない、そう思ったらいてもたってもいられずに祐二が走って行った方へと足を向けた。
ボールを追いかけただけなのに一体どこへ行ったんだろう。
人で溢れた砂浜で祐二を探すのはかなり難しい、それでも祐二を見つけられないわけがないとあちこちに視線を走らせる。
「イッテェ……イテェって! 離せよっ!」
どこからか祐二の叫ぶ声が聞こえてくる。
(祐二!?)
まさか祐二の身に何か起きたのかと頭が真っ白になる。
「はーなーせーよっ! イッテェっつてんだろ!」
さらに聞こえて来た祐二の声を頼りに足早に進んでいくと、祐二を後ろから抱きしめ……もとい、こめかみに拳を当てている男の姿を見つけた。
(俺の祐二に何をしてる)
何があったか知らないが大切な祐二が四肢をバタつかせて逃れようとしている、俺は周りを見る余裕もなくその男を睨み付けたまま近付いた。
(触るんじゃない)
男のすぐ後ろに立つとなぜかそこには雅則と同じ学校の郡山がいるのが見えた、二人とも何か言っていたけれどそんなことはどうでも良かった。
男の手が祐二のこめかめを挟んでいる光景を目の前で見ると、怒りはさらに膨らんで声を掛ける余裕もなく男の腕を取るとそのままひねり上げた。
「……ってぇ、次から次へと何なんだよ!」
関節技なら身に付けている、ギリギリのところまで締め上げると男は大声を上げて祐二を解放をした。
祐二の身体から男の手が離れればそれでいい、男の手を離すとすぐに祐二を引き寄せて守るように背中にかばった。
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