『君の隣』
 第四章 P12


「分かってんだろ……」

 誰よりも祐二の事を理解している貴俊には何を考えているかなんて手に取るように分かるはずなのにあえて聞いてくることに腹が立った。

 祐二は口を尖らせて睨み付ける。

 貴俊を前にしたらここまでが精一杯、すべてを見透かすような貴俊の視線に捕まる事は悔しいはずなのにそれを少しだけ嬉しいと思う自分がいることに抗えない。

「教えて?」

「何で言わせるんだよ……」

「さっきは俺から言っただろ? 今度は祐二の番」

 祐二はようやく自分が貴俊の手の内に落ちていることに気付いた。

 あえて自分から泊まると切り出しのも布団に入ってから何もしなかったのもどれも祐二からこの後の一言を聞くためだった。

 心底悔しそうな顔をした祐二は下唇を噛んだ。

「噛んだらダメだよ」

 貴俊は祐二の唇を親指で撫でてうっとりした表情で見つめた。

 指で唇を弄ばれた祐二はその指を受け入れようとわずかに唇を開いたがそれ以上指は入ってこようとしない。

 貴俊はゆっくりと顔を傾けて唇を祐二の耳に寄せた。

「祐二? 教えて、どうして拗ねてるの?」

 甘い声で囁かれた祐二は腰の辺りに甘い疼きを感じた。

 温かい唇が耳たぶを掠めて指はゆっくりとした動きで下唇を撫でている。

「お、お前は……いつもそうやって……」

 唇を震わせながら祐二が声を出した。

 顔を起こした貴俊は暗闇でも明かりが必要ないほど顔を近づけてはっきりと祐二の顔を見つめた。

 祐二も潤み掛けた瞳で貴俊の瞳を覗き込んだ。

「どうしたいの? 言って?」

「……し、しないのかよ」

「でも祐二は自分の部屋でするのは嫌だろ?」

「そ、それは……。いいから、さっさとしろよ……」

「ダメだよ。途中で嫌だって言われても止められないからする前にちゃんと確認しないとね」

「か、確認って……」

「祐二は自分のベッドで抱いて欲しいの?」

「そういう言い方すんなっ」

「抱いて欲しくないの?」

「だからどうしてそういう言い方すんだよ……バカ貴俊……早く…………来いよ」

 涙目の祐二の声がだんだんと小さくなり手が伸びてTシャツの裾を掴むのを見ていた貴俊はベッドに上がると祐二を抱きしめた。


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