『君の隣』
 第一章 P13


 気配で一歩、また一歩近付いてくるのが分かる。

「怒ってる?怒ってない?」

 怒って…?

 あれ…俺って怒ってんのかな。

 確かに顔合わせたくないって思ったけど、怒ってるとはちょっと違う…。

「分からない?」

 黙っていた祐二は貴俊の質問にきごちなく頷いた。

「そう…じゃあどうして俺の事避けてるの?」

「それは…」

 どうして…って。
 
「恥ずかしいだろォ…あんなのしたんだし…」

 貴俊が小さく笑ったような気がした。

「恥ずかしいだけ?思い出してまた勃たなかった?」

「そんなわけあるかっ!」

「気持ち良くなかったの?」

「それは…」

 思わず口篭る。

 あんな快感は初めてだった。

 手で扱かれただけで頭の中が真っ白になるなんて…。

 貴俊がまた一歩近付いてもうベッドの横に立ち祐二を見下ろしている。

「祐二?」

「答えて」

「気持ち良くなかったの?」

 貴俊の静かな口調が祐二を追い詰めていく。

「気持ち良くないわけないよね?あんなに可愛い声出して俺にしがみついてたんだし」

 ビクンッ!

 昨日の事を無理矢理思い起こさせるような貴俊の口調に祐二の頭の中はグラグラと揺れ始めた。

「祐二…顔見せて?」

 貴俊の手が祐二の髪を梳くように撫でた。

 手…。

 昨日の貴俊の指を嘗めた顔が思い浮かんだ。

 こんなの…俺…。

「さっ、触るなっ!気持ち悪いっ!!」

 自分の髪触れていた指がピクッとしてすぐに離れた。

 し、しまった…。

 祐二の頭の中が後悔の文字で埋め尽くされる頃ドアの閉まる音がやけに大きく耳に響いた。

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