『君の隣』
 季節『ある夏の一日'08』 P1


 7月最後の日曜日。

 学校がある日や部活がある日よりも早起きするという快挙を成し遂げた男がここにいる。

「なーなー!今日は晴れだよな!?な!?」

 貴俊の部屋で窓から身を乗り出して空を仰ぐ祐二。

 まだ時刻は7時前だが空には雲一つない空が広がっている。

「大丈夫。晴れだよ」

 着替えている貴俊はクスクス笑った。

 まだ眠っていた貴俊の部屋に祐二が飛び込んで来たのは30分前。

 約束の時間よりもずっと早かった。

「なー早くしろよぉ!」

「まだ電車の時間までだいぶあるよ」

 祐二が子犬だったらきっと尻尾をちぎれるほど振り回しているだろう。

 それほど祐二ははしゃいでいた。

「楽しそうだね?」

 着替えを済ませた貴俊は窓から身を乗り出す祐二を後ろから掴まえてベッドへ引きずり込んだ。

「うわぁっ!離せよっ!」

 腰をしっかり抱えられて祐二がもがく。

 だが貴俊の長い手足は祐二をしっかりと拘束している。

「昨夜はちゃんと眠れたの?」

 夜遅くまで祐二の部屋は電気が点いていた。

 多分遠足の前の日のようにはしゃいで眠れないんだろうと貴俊は灯りの点いた部屋を眺めていた。

「ね、寝たに決まってんだろっ!」

 ぎこちない態度は言葉よりも雄弁だった。

「ビキニの女の子と遊べるから楽しみ?」

「ち、違っ…」

「ビキニの似合う可愛い彼女が出来ちゃうかもしれないね?」

 夏休みに入る直前に同じサッカー部の太一にプールに誘われた。

 太一がクラスの女子を何人か誘って今日はみんなで隣県にあるリゾートプールへ遊びに行く。

 祐二はこの日をすごく楽しみにしていた。

「祐二は…小柄でおっぱいの大きい子が好みだったよね?」

 そう意地悪に囁く貴俊。

 数ヶ月前だったら何てことのない会話。

 けれど今の二人にとっては別の意味が含まれていた。

「お、俺はっ!」

 祐二は自分を抱えている貴俊の手をギュッと掴んだ。

「俺は…?」

 貴俊は耳のそばで囁くような声を出した。

「貴俊とプールに行けると思ったから…」

 今にも消えてしまいそうな小さな声。

 家が隣同士で幼なじみだった二人が親友という枠を超えた関係になったのは春の出来事。

 負けず嫌いで天邪鬼な祐二も少しずつだが貴俊の前だけでは本当の姿を見せる。

 貴俊は照れくさそうに俯く祐二の首筋に唇を寄せた。

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