『君の隣』
 第三章 P47


 数日後−

「また、すっげぇ混んでる!」

 満員電車に滑り込むようにして乗った祐二が顔をしかめた。

 走ったせいか額に軽く汗を掻いている。

「祐二が起きないからだろ?」

「だって!昨夜は遅くまでDVD見てたから!」

 いつものように貴俊に責められて祐二は反論する。

 ファァッと大口を開けて祐二が欠伸をしている。

「俺も見てたよね?」

 貴俊の突っ込みに祐二は慌てて口を閉じる。

 確かに昨夜は祐二の部屋で一緒に借りてきたDVDを見ていた。

 しかも祐二には最後まで見た記憶がなく気が付いた時には朝でちゃんとベッドの上だった。

 もちろんDVDも綺麗に片付けられていた。

 当然の事ながら片付けたのも眠ってしまった祐二をベッドに運んだのも貴俊だと祐二は分かっている。

(こいつはロボットなんだ!)

 そう思っていないとますます心がやさぐれそうだった。

「つーか…お前さぁ、なんか近くね?」

 発車ギリギリに乗り込んだ二人はドアの所に立っていた。

 車内は確かに満員だったが貴俊の体が必要以上に自分に近いのが気になった。

 近いというよりそれはまるで祐二の体を覆っているようにも見える。

「この前みたいな事が起きたら嫌だろ?」

「貴俊…」

(俺の事守ってくれてるのか?)

 同じ男として痴漢から守られるのは微妙な気分ではあったけれどそれでも祐二は嬉しかった。

(俺が女だったらベタ惚れだな)

 祐二は自分がベタ惚れなことを棚に上げて心の中で笑った。

 幸せそうな顔をしながら祐二は少しだけ貴俊に体を預けた。

 貴俊は目の前の祐二の行動に嬉しそうに目を細めてからニヤッと口角を上げた。

「もしかして痴漢されたくて寝坊してるの?言ってくれれば良かったのに」

 貴俊が声をひそひそと囁いた。

「お、お前バッカじゃねーーの!」

 満員電車に祐二の大きな声が響く。

 けれど周りから迷惑そうな顔でジロジロと見られた祐二はタジタジと小さくなった。

「痴漢したら別れるからな」

 顔を赤くした祐二が小さい声で呟く。

「痴漢しなかったらずっと別れたくないってこと?」

「う、うるさい…」

 耳元で囁かれて祐二は顔を真っ赤にして窓の外を眺めた。

 俯いているが耳の後ろからうなじまで真っ赤に染めているのが貴俊には丸見えだった。

 日に日に可愛くなっていく祐二に貴俊は堪らなく愛しさを覚えた。

 満員電車も君の隣なら悪くない。


end

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