『君の隣』
 第三章 P16


 夕方のラッシュに揉まれながら電車に揺られ最寄駅を降りた二人はいつものようにコンビニに寄った。

「腹減ったー」

「帰ったらすぐご飯でしょ?」

 パンをあれこれと手に取りながら選んでいる祐二を貴俊が窘める。

 けれどお構いなしに祐二はメロンパンを手にするとレジへ向かった。

 貴俊は仕方が無いなと小さくため息を吐いて出口へ向かった。

 同い年の二人なのにその様子はまるで兄と弟のようにも見える。

 店を出てきた祐二の口はすでにメロンパンに噛り付いている。

「おっ、コレ美味ぇ。貴俊も食ってみろよ!」

 歩きながら食べかけのパンを貴俊に差し出した。

 その顔はまるで無邪気な子供のようにキラキラと目を輝かせて貴俊を見上げている。

「ほんと、美味しいそうだ」

 貴俊は足を止めてパンを持っている祐二の手首を掴んだ。

 腰を屈めて顔を近づける貴俊を祐二は期待を込めた目をしながら見守っている。

(え?…アレ?)

 貴俊の顔はパンの横を通り過ぎて自分に近づいている。

 しまった!と祐二が気が付いた時にはすでに遅かった。

 貴俊の唇が自分の口の端に触れている。

「ば、ばかっ!!」

 驚いた祐二が体を避けようとした時にはもう貴俊の顔は離れていた。

(なんで道端でこーいう事すんだよっ!)

 祐二は冷や汗を掻きながら当たり見渡した。

 周りに人影が無い事を確認してホーッと息を吐く。

「お前なぁ!なに考えてんだよっ!」

(ったく油断も隙もあったもんじゃねぇ)

 けれど貴俊は満足そうに微笑んでいる。


「なにって美味しそうなパンが祐二の口に付いてたから食べただけだよ」

 そう言いながら貴俊は祐二の唇を指でトントンと触った。

 手で触られて祐二は手を払いのけながらグイグイと手の甲で唇を拭った。

 キスをされただけじゃなくてパンくずを食べられたのがものすごく恥ずかしい。

 祐二はその場から逃げ出したくなったけれどパンを持っている手はまだ貴俊に掴まれたままだった。

「手、離せっ!」

 しっかりとパンを掴みながら腕を振った。

 貴俊にしっかりと掴まれてその腕はわずかしか動かない。

「パン少しくれるんでしょ?」

 そう言いながら貴俊は顔を傾けた。

(食うなら最初から食えっつー…)

 パンを食べようとしている貴俊の顔に思わず見惚れてしまった。

 目を軽く伏せて口を開けている貴俊の顔がまるで自分のアソコを咥えようとしている姿と重なった。

 パンに噛り付いた瞬間、貴俊は目を開けて祐二を見上げた。

 またその視線があの時そっくりで祐二の胸がドクンッと打った。

「ん、美味しいね」

 祐二がドキドキしている間に貴俊は顔を離して口を動かしていた。

 ハッと気が付いた祐二は恥ずかしくてすごい勢いでパンにかぶり付いた。

(くっそーこれじゃあ俺が変態みたいじゃねーか!)

 パンを食べているだけの貴俊をそんな風に見ていた自分が信じられなかった。

 これだけは絶対に貴俊に悟られたくない。

 祐二は必死にそれを隠そうとしていた。

 それを知ってか知らずか貴俊は祐二がさらに動揺するような事を口にした。

「間接キスだね」

 耳元に口を寄せてかぶり付いているパンを指差しながら囁いた。

 そして小さくクスッと笑う声が聞こえた。

(やっぱりお前の方が変態だっ!!)

 声には出さず胸の中でありったけの声で叫んだ。

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