『君の隣』
 第三章 P15


(アイツは魔法使いなんだ)

 今朝の貴俊を思い出してイライラと紙パックのジュースのストローを噛み潰した。

 あれから日和に問い詰められからかわれて散々な一日だった。

 貴俊だけが一人涼しい顔でいつも通りなのがさらに祐二の怒りを増幅させた。

 どうしても貴俊のすることに抗えない事が祐二は悔しくて堪らない。

 一回でいいから貴俊に勝ってみたい。

 祐二のささやかな夢だ。

 けれどそれは本当に夢であって叶うことはないだろうと自分自身でも分かっている。

 なぜなら…。

 今もこうしてあんなに昼間口も聞きたくないほど腹を立てていた相手を待っているのだから。

(あんな奴待ってやるもんか!)

 部活が終わって着替えている間もそう思っていた。

 けれどいざ鞄を持って部室を出ると素直に足が校門に向かおうとしない。

 喉が渇いてるだけだ…と自分に言い聞かせて下駄箱近くの自動販売機まで歩いた。

 すぐ近くの自動販売機はなかった事にして目を向けないことにした。

 移動する途中でチラッと確認した部屋はまだ電気が点いていた。

 この時点で決定的だったにも関わらずなかなか認めようとしない。

(やっぱり魔法がかけられているんだ)

 どんなに嫌でも腹が立ってもムカついても一緒に居たいと願い自分がいる。

 もちろん祐二はその魔法の本当の名前を知っている。

 ただそれを口にするのは祐二にとってこの上なく恥ずかしいことで"貴俊が魔法をかけた"と人のせいにしているにすぎない。

 それに…こうして待っている理由はもう一つ…。

「祐二、待っててくれたんだ」

 下駄箱の奥から長身の男が姿を現した。

 もちろん祐二の待ち人の貴俊なのは声を聞いても姿を見てもすぐに分かる。

「べ、別に待ってたわけじゃねぇよ…。喉が渇いたからジュース飲んでただけだ」

 祐二は空になった紙パックをグシャッと握り潰しゴミ箱に放り込んだ。

 それが三つ目だという事は絶対に内緒だ。

「そうなんだ。でもちょうど良かった、俺も終わったから一緒に帰れるね」

 貴俊は祐二の頭をクシャと撫でて笑いかけた。

 祐二はチラッと隆俊の顔を盗み見た。

(この顔が好きだ)

 自分にだけしか見せない嬉しそうな顔と大きな手で頭を撫でられるのが好きだ。

「お、おぅ。タイミング良かったな」

 返事をしてそそくさと歩き始めた祐二の後を笑顔の貴俊が後を追う。

 貴俊は祐二が待っててくれているだろうと思っていた。

 けれどそのことを口にすればまた機嫌を損ねて走り出してしまうことは間違いないからそんなヘマはしない。

(そんなところが可愛いんだけどね)

 貴俊は頬が緩むのを何とか抑えながら早足で歩く祐二の横に並んだ。


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