『君の隣』
 第三章 P14


 ペタン、ペタンとやる気のない祐二の足音が廊下に響く。

 すでに朝のホームルームは始まっていて廊下に人影は見当たらない。

「おいっ…」

 保健室を出てから不貞腐れて話しかけても返事もしなかった祐二がようやく口を開いた。

 貴俊は祐二の方を向いた。

 けれど話しかけた本人の祐二は真っ直ぐ前を向いたまま相変わらずペタン、ペタンと歩いている。

「いつからこんな事企ててたんだよ…」

 騙されたと分かっていても抗いきれなかった自分にももちろん腹が立っていた。

 しかしその数十倍も貴俊に対して腹を立てている。

「企ててなんかないよ」

「じゃあ…何でこんなに手際がいいんだよっ!」

 声を荒げた祐二の声が廊下に反響した。

 貴俊が声を潜めて「しぃっ」と祐二に注意を促した。

「祐二があんまりにも思い通りに動いてくれるからかな」

「なっ…!」

(別にお前を喜ばせる為にしてるわけじゃねぇっつーの!)

 自分でも分からない。

 貴俊がワザとそう仕向けているのかそれとも自分が貴俊の望む事をあえてしているのか。

 それとも…本当に俺の行動を読まれているのか。

 どれにせよいつも祐二は貴俊の掌の上で踊らされているという事実は変えられない。

 二人は教室が近づくと祐二が立ち止まって貴俊も足を止めた。

 一瞬だけ顔を見合わせた。

「お前、ほんとムカつく!」

「でも俺は好きだよ」

 睨み上げた祐二を見て微笑んだ。

 そして一瞬の隙を衝いて祐二の唇にチュッと軽いキスを落とした。

 祐二は慌てて貴俊の体を突き飛ばした。

 口元を手で隠して頬を染めながら周りを見渡している。

(こんな所で何考えてんだよっ!)

 けれど貴俊は気にする事なく歩き出すと教室のドアを開けた。

 祐二も一足遅れて慌てて教室に入る。

「おぅ、篠田大丈夫か?」

 どうやら保健医から連絡がいっていたらしく担任が貴俊の顔を見るなり声を掛けた。

「えぇ、大丈夫です」

 貴俊は頭を下げると自分の席へ着いた。

 祐二も挨拶をして自分の席へ向かおうとすると担任に呼び止められた。

「具合が悪いのは篠田じゃなくてお前なのか?」

「へっ?」

 驚いた祐二が慌てて振り返る。

「顔赤いな、熱あるなら無理すんじゃねぇぞ」

 その言葉にバッと先に席に座った貴俊を振り返った。

 目が合うとクスリと笑いながら手を振っている。

(くっそぉ…あンのやろぉぜってぇ許さねぇっ!)

 祐二はうなじまで真っ赤にしてバタバタと大きな足音を立てながら自分の席に座った。

「祐ぅ〜おーはよぉー」

 後ろの席の日和がいつもの調子で声を掛けてきた。

「お、おぅっ…」

「ほんと顔赤いねー。もしかしてー二人でーエッチな事でもしてたのー?」

 日和が体を乗り出して祐二の耳元で囁いた。

 ビクンッと体をビクつかせると今度は震え出した。

 祐二は怒りを堪えるために机の上でギュゥと拳を強く握った。

 怒りに震える祐二の後ろ姿を見た日和がさらに一言追い討ちを掛けるように呟いた。

「当たりだ〜。ほんと祐は分かりやすいよねぇ」

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