-one-

 高速道路をハラハラしっぱなしだった麻衣はようやく見慣れた街並みにホッと息を吐いた。

「もう……事故でもしたらどうするつもりだったの?」

「するわけないよ。麻衣に怪我させるわけないだろ」

「買い物なんていいから、早く出ようって言ったのに、陸ってば……全然聞いてくれないから」

 後部座席には大きな荷物、クリスマスだからと訳の分からない理由で陸が購入した、一番大きなぬいぐるみ。

 あんなお洒落な部屋なのに、愛らしくて存在感のあるぬいぐるみを置くと言って聞かなかった。

「後でぬいぐるみ抱っこしてる麻衣を写真撮るの。ぜってー可愛い! けど
……その前に今日のクリパだ」

 ハンドルを握る陸の声が沈み、麻衣は思い出したように運転席の陸を見た。

「そう言えば結局条件ってなんだったの?」

「ビンゴ大会するんだって」

 嫌そうな陸の声に麻衣は首を傾げた、パーティでビンゴくらい普通だと思ったからだ。

「麻衣……誠さんのこと全然分かってないよ。あの人が、クリスマスに、普通のビンゴすると思う?」

 陸の力のこもった声に麻衣は何となく肯いた。

 仕事が大好きで熱心な所はどこか美咲と通じるものがあると思う。

「どんなビンゴなの?」

「普通のビンゴだよ。問題は賞品」

「賞……品」

 そこまで言われると麻衣でも何となく想像がついて、それから陸がその後に言おうとしていることも何となく想像がつく。

「最初は一日独占権って話で俺はオッケーしたのに、蓋を開けてみれば一日店外デート権!? ふざけんなっつーの。俺の貴重な休日を何だと思ってんだ」

 憤慨する陸に掛ける言葉も見つからず、麻衣が誠さんらしいなと思っていると、信号待ちで車を止めた陸がこっちを見た。

「麻衣、頑張ってね!」

 ああ……やっぱりと思った麻衣は苦笑いを浮かべた。

「そればっかりは頑張っても無理な話でしょ? ビンゴなんて運なんだから、ね」

「違うんだよ! 麻衣は誠さんの恐ろしさを分かってないっ!」

「どういうこと?」

「とりあえず最初に渡されるビンゴカードは1人1枚。ピンク入れるたびに1枚追加、エノテークなら3枚、ゴールドは10枚」

 陸の吐き捨てるような物言いに麻衣は「あー」と乾いた笑いをした。

 いかにも誠さんらしいやり方、同伴以外で店外デートはほとんどオッケーしない陸、これなら間違いなく陸の売上げは驚く金額になるに違いない。

「だからね、麻衣」

 信号が青に変わり動き出した車の中で陸は思いつめたような声を出した。

「とりあえずテーブルついたら、ゴールド2本入れて。それでも心配は心配だけど……」

 ゴールド2本という言葉に麻衣は頭の中で電卓を叩き、すぐに首を横に振った。

「そんなのダメよ。いくらすると思ってるの!」

「金額じゃないじゃん! 俺の一日デートが掛かってるんだよ? 麻衣はもっと必死になるべきだ」

 子供のように膨れた陸に麻衣はため息を吐いた。


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