-one-

 なかなか「うん」と言わない麻衣に機嫌を損ねた陸が乱暴にハンドルを切った。

 車はクリスマスで賑わう繁華街へと入り、混雑する道路もまた機嫌を悪くする原因にもなった。

「……陸」

「なに」

 ぶっきらぼうな返事に麻衣はため息を吐きつつも、このままでは仕事にも支障が出かねないと陸の膝の上に手を置いた。

「麻衣?」

「仕事なんでしょ? 本当に楽しみにして、陸のためにお金を出してくれる人達が知ったらどう思う?」

 麻衣も出来るならそうしたいと思っていても我慢しているということを陸に理解して欲しかった。

 いつかは自分の為に辞めて欲しいと言う日が来るかもしれない、でもそれまでは陸が納得いくまで続けて欲しいと思っている。

「麻衣には敵わないなぁ」

 ようやく柔らかくなった陸の声に、麻衣は笑みを浮かべて顔を覗き込むと、陸は少し照れくさそうに唇を尖らせていた。

「あれ……まだ、怒ってる?」

「怒ってない。けど……抱きしめてキスがしたくてたまらない」

「残念だったね」

 陸らしい言葉に麻衣が笑うと車は思いがけない場所へと入って行く。

「あれ……陸?」

「駐車場に着いたらすっごいエロいキスしてやる」

 いつも陸が利用しているアポロ(喫茶店)の隣にあるパーキングではなく、店から少し離れた場所にあるホテルの駐車場だった。

「え……なんで?」

 陸は地下の駐車場へ巧みにハンドルを操作しながら下りて行く。

 ぎっしり詰まった駐車場をゆっくり走り、ようやく見つけた空きに陸は簡単に車を入れ、完全に車を停めるとシートベルトを外し、宣言通りいきなり激しいキスをした。

「んっ……んうぅ」

 いつになく激しく唇を奪われ、初めは戸惑って陸の胸を押し返した腕は、すぐに陸の首に回して陸の唇に応えた。

 コーヒーの香りのする舌に何度も絡め取られ、苦いはずなのに蕩けそうに甘く、麻衣はすがるように陸に抱きついた。

「やばい……可愛い。このまま部屋に行きたいところだけど、さすがに今日だけはまずい」

 名残り惜しそうに唇を離した陸は、最後に軽く唇を重ねると時計を見てからエンジンを切った。

 静かになった車内で、自分の乱れた鼓動がやたら大きく聞こえ、麻衣は火照った頬に手を当てて俯いた。

「チェックインだけしていくね。麻衣は部屋に届いている服に着替えてから店に来て」

「部屋? 服? 陸……どういうこと!?」

 驚いた麻衣に陸は満足そうに笑うと、麻衣を促して車を降りた。

 車を降りて慌てて陸の横へと並ぶと、肩を抱かれて歩き出した。

「クリスマスは少しでも長く麻衣といたいから、部屋に戻る時間も惜しかったから、って言ったら怒る?」

 怒れるわけがない、こんな風に全力で愛されて幸せすぎるほど幸せだから。

 普段はつい口うるさくなってしまいがち、今だって本当は「服なんか買って」と言いたいし、「ホテルなんてもったいない」と怒りたいけれど、そのすべてを呑み込んで陸の身体に寄り添った。

「ありがとう、陸」

 クリスマスに部屋を押さえたということは、きっと何ヶ月も前からこの日を楽しみにしていたはず。

 クリスマスは必ず仕事で遅くなると分かっていて、それでも自分との時間を大切にしようとしてくれる陸の気持ち、これが本当のクリスマスプレゼントみたいに思えた。

「じゃあ……ゴールド、入れてくれる?」

 調子に乗った陸にそれだけはキッパリと断って笑った。

「いいよーだ。そんな余裕のあること言っていられるのも今のうち、店での俺を見たら絶対独占したくなるんだからね。今日の俺はいつもと違うから」

 自信ありげの陸の挑戦的な言葉に笑い返したけれど、本心ではいつもそう思っていることは絶対に秘密。

 今夜も彼はみんなのナンバーワン、私もそんな彼のファンの一人になってクリスマスの夜を楽しむことにしよう。

 その後はきっと素敵なオンリーワンの夜が待っている。

end

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