-one-
「犬や猫でも、花や木になってても、きっとまた出会えるよ。だって俺と麻衣は運命の相手だから」
昔は運命って言葉が大嫌いだった。
そんな簡単な言葉で人生を諦め、可哀相な奴だと慰める自分が嫌いだった。
でも色んな出会いが頑なまでに張り詰めていた尖ったナイフのような自分を守るための盾を溶かしてくれた。
幸せだと思えるようになった頃、運命って言葉を前向きに捉えていることに気が付いた。
同じ言葉でも自分の置かれている環境でまったく違う言葉になることを知った。
運命なんて言葉を口にして笑われたって構わない。
「俺は麻衣だけだから。何回生まれ変わったって、何に姿を変えたって、俺の隣には麻衣がいてくれなくちゃ」
「……陸」
今度は笑わない麻衣がはにかんで下を向く。
八歳年上なのに可愛くて、母親みたいに口うるさい時もあるのに愛おしくて、守りたい相手なのに時々ハッとする強さを垣間見せる。
麻衣は特別、俺にこんな言葉を言わせたただ一人の女性。
「愛してる。今までの辛かったことはきっと麻衣と出会うためだったんだ」
人生には良い事と悪い事が同じだけあると聞いたことがある。
麻衣と出会ってからの俺の人生は良い事ばかりだから、きっと神様がそれまでに悪い事を全部与えたんだ。
舞台ではショーがクライマックスを迎えていた。
大きなクリスマスツリーが点灯されたのに、俺はもう麻衣の泣き笑いの顔しか目に入らない。
「愛してる」
どんな言葉でも口にする俺だけど、この言葉は特別だと思っているから、今までもほとんど言ったことがない。
気持ちを込めてもう一度言うと、麻衣が瞳を潤ませながら同じ言葉を口にしてくれた。
多少イチャイチャしたって大丈夫、なんて言ったけれどこれは大丈夫じゃないかもしれない。
気が付けば麻衣を抱きしめたまま唇を奪っていた。
恥ずかしいことをしているなと思ったけれど、周りがクリスマスツリーに気を取られているのを良い事に、本能のまま唇を貪った。
それは我に返った麻衣が俺の胸に拳を叩き付けるまで続き、顔を真っ赤にした麻衣の可愛い罵倒に俺の頬は緩みっぱなしだった。
end
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