-one-

 幾重にも重なる人・人・人……。

 今日ここに来た最大の目的のショーを見るために、寒空の下には何百人いやそれ以上の人が集まっている。

 すでに立って見ることしか出来ないが、それでも見やすい場所を確保することが出来た。

「ねぇ、陸……時間大丈夫?」

 さっきから麻衣はそればっかりだ。

 時間を確認しては心配そうに俺に向かって同じ言葉ばかりを掛ける。

「これ見なくちゃ来た意味ないじゃん」

「でも……遅くなったらお店」

「仕事にはちゃんと間に合わせる。まあ……少し遅れるかもしれないけど、それでもこれだけは絶対に見る!」

 遊びたいだけでそう言ってるわけじゃない。

 今年最後だって聞いたから、それに……今年のクリスマスは今日しかないから。

 そんな説明をしたってきっと分かって貰えないだろうから言ったことはない。

 でも「来年があるから」なんて思わないようにしたい、いつ何が起きるかなんて誰も分からないから、今この時に俺が持てるすべてで麻衣と過ごしたい。

「陸……でも遅れそうだからって無茶な運転だけはしないでね。遅刻は良くないけど、事故するのはもっと良くないから」

「うん、分かってる」

 交通事故が生む悲しみや痛みは自分が一番良く分かっていた。

 交通事故は一番怖い、人生のアクシデントの中で遭遇する確率が一番高い事故だと思う。

 大事な人を悲しませないため、大切な人を傷つけないため、車を運転する時は本当に細心の注意を払うようにする。

「あ……麻衣、始まるよ」

 消えたライトに周りがざわついて音楽が流れ始める。

 朝から寒く太陽が一度も顔を出さないまま夜になり、足元から深々と冷えてくるけれど、腕に抱いた温もりに心が癒される。

 麻衣のことを抱きしめながら遠い舞台で繰り広げられるショーを見ていると麻衣が俺の腕を掴んだ。

「……あ」

 どうしたのかと後ろから覗き込むと麻衣が瞳に涙を浮かべている。

「麻衣?」

「幸せだなあと思って。好きな人と気持ちを通い合わせることが出来るのって考えたらすごいことだよね」

 麻衣の言う通り。

 麻衣と出会ったこと、好きになったこと、そして今こうして二人でいられること。

 何億という人の中から出会えた相手と両想いになって、これからも一緒にいたいと思う。

 それはもしかしたら奇蹟のような確率かもしれない。

 でもね麻衣、俺は絶対の自信があるよ。

「生まれ変わって麻衣がどこにいても見つけるよ」

 本気のそんな言葉に麻衣がクスクス笑う。

「人間じゃなくても?」

 こんな時にそんなこと言うなんて、麻衣は時々よく分からない、でもそんな所さえも可愛くてたまらない。


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