姫の王子様

 自分がこんなことをするなんて思わなかった。

 意識したつもりはない、本当に無意識で気が付いたのは沙希ちゃんの一言だった。

「あの、お兄さん……手……」

 ジェットコースターを乗り終えて、降りる時に手を貸してそのまま出口へと向かった。

 握るというより掴んだ手に困惑したように沙希ちゃんが視線を落とす。

 なんだろうな、この気持ち。

 困っているのを分かっていてもその手を離せない、むしろもっと困った顔を見たいような気持ちになる。

「まだフラフラしてるみたいだから」

 嘘は言ってない。

 どうやらジェットコースターが苦手だったらしい沙希ちゃんは少し青い顔をしている。

 申し訳ないなという気持ちも手伝って、沙希ちゃんのバッグも俺が持っている。

「……でも」

「どこか休める場所に着くまで、ね」

 そんなことを口にして、自分はこんな男だったのか驚く。

 庸介に言わせれば「空気の読めない男」の俺だから、今こうしていることも実は少し場違いなんじゃないかと思えて来た。

 離すべきなのか?

「あー俺の手、もしかしたらすごい手汗かいてて、気持ち悪いかもで……」

 何を言ってんだか、と自分で速攻突っ込んだ。

 自分でもどうしたいのか訳が分からない。

「そんなことないです。あの……嫌じゃなければ、お願いします」

「あ……こちらこそ、お願いします」

 アトラクションの出口で頭を下げ合う二人に、周りが怪訝な顔をしていたことに気付いたけれど、いっぱいいっぱいで構う余裕はなかった。

end

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