体育祭in青稜学園U3君の隣
さっきまで喧騒が嘘のように静まり返った。
実況していた放送部員も空気を読んでいるのか、それともこの状況を把握していたのか今聞こえるのは小さく流れるBGMだけだ。
(頼む! 頼むからバカなことだけはするなっ!!)
祐二は貴俊を真っ直ぐ見ることが出来ず、自分よりも華奢な日和の後ろに隠れるように身体を小さくした。
「貴ー、お題は何だったのぉ?」
祐二の気持ちを知ってか知らずか(いや、気付いているに違いないが)日和が沈黙を破る。
いつもののん気な間延びした声は緊張感の欠片もない。
(日和〜〜〜っ!!)
何てことをしてくれるんだとばかりに、祐二は日和の肩を掴み揺さぶろうとしたが、顔を上げた瞬間こっちを見ている貴俊と目が合った。
貴俊は手に持った紙に一度視線を落とすとゆっくりと顔を上げた、それでも貴俊の視線が自分へ向けられていることに気が付いて、祐二は思わず身体を引いた。
(マ、マジ……なのか?)
ここで貴俊が「好きな人」と言って、自分の名前を呼ばれて二人でゴール姿を思い浮かべた。
冗談で笑ってくれるかもしれない、でもこれは代々冗談で済ませるわけにはいかない、暗黙のルールみたいなものがある。
「あのね……」
貴俊が口を開く。
「日和、一緒に来てくれない?」
(へ?)
貴俊の口から出たのは予想に反して自分の名前ではなかった。
間違いなく自分だと思っていただけに、信じられない気持ちで貴俊の顔を見ると、さっきまで自分を見ていると思っていた貴俊の視線は前にいる日和に向けられていた。
「俺ぇ〜?」
「うん」
日和が自分の顔を指差しながら立ち上がると、あれほど静かだったグランドが再びざわめき始めた。
「実はね、俺のお題「親友」だったんだ。良かったよ……ダルマだったらどうしようかと思ってたんだよね。うちの学校にあるダルマ20kgくらいあるんだ」
貴俊の口から明かされたお題に、周りの女子たちは口々に安堵の感想を漏らし、次の瞬間には興味は「好きな人」を誰が引いたのかに移っていた。
(なんだよ、それ……)
ただ一人、祐二だけは呆然としたまま、貴俊と日和が手を繋いで残り半周を走る姿を見送っていた。
そして体育祭も無事に終え、ホームルーム後の祐二はというと……。。
「祐二、片付けとかあって遅くなるから、先に帰っ……」
貴俊が話しかけるのも無視して、祐二は一目散に教室を飛び出した。
教室を出て行く祐二の姿を追いかけもせず、困ったようなでも嬉しそうな笑みを浮かべる貴俊に、日和はソッと隣に立って貴俊を見上げた。
「祐、ショックだったんだよ」
「んー……」
「なんでぇ、俺だったの?」
確かに日和でも間違いではないだろうけど、生まれた頃からの付き合いの祐二を選ばなかったことに、日和も正直驚いていた。
「だって、それはさ……」
貴俊は周りを確認すると、腰を屈めて日和だけに聞こえるように打ち明けた。
「祐二は親友じゃなくて恋人でしょ。好きな人のカード引きたかったな。そしたら今頃、公認の仲だったのに」
心底残念そうに貴俊がため息を吐く。
(うわぁ……)
日和はこの時初めて祐二に同情した。
そして、その日の夜。
貴俊の部屋では……。
日和にした説明を聞かされて怒りながらもホッとする祐二と、メロンパンのご褒美を強請る貴俊の姿があった。
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