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兄、戸惑う

 思いがけずクリスマスの予定が舞い込んでしまった夜、そろそろ寝ようとしていた拓朗の携帯が鳴った。

 表示された電話の相手に拓朗は無視しようか迷った後、仕方なく通話ボタンを押した。

『なんだよ、寝てたのかよ』

「起きてる」

 応対の遅さを責めるような声に拓朗はぶっきらぼうに返し、上着を羽織るとベランダへと出た。

 周りの明かりが少なくなり、さらに輝く星が増えた空を見上げながらタバコに火を点ける。

 電話の向こうでも同じようにタバコに火を点けている音を聞き、一口目を吐き出すタイミングも同じだと気付いて、拓朗は持っているタバコを睨みつけた。

「全部ヨウが悪い」

『何でだよ!』

 訳も分からず責められた庸介が電話の向こうで笑う、さすがに今のは自分の八つ当たりだと気付いて、素直に謝った。

「で、こんな時間に何だよ」

『お前も来るんだってな。 まあ、予想通りだったからいいけど、沙希ちゃん誘ったんだって?』

「二人で行かせられるわけないからな」

『それで、沙希ちゃん? なんと言うか……タクはある意味ひでぇ男だよな』

「はあ? どういう意味だよ」

『いやいや。あーそれでさ、どっちが車出す? 俺の車はデカイけど、お前の車の方が新しくて綺麗だしな』

「俺の車でもいいなら俺が出す、高速代は折半な」

 家の駐車場に視線を落とす、最近買い替えたばかりの新車が暗闇の中でも光っているのが分かる。

『ちなみに……助手席は誰が座るんだ?』

 まだ数回しか乗っていない自分の車に見惚れていた拓朗は庸介の問いかけに迷わず答えた。

「珠子」

 庸介の隣に座らせたくない一心で即答した拓朗に、庸介は意味深な声で笑った。

『ふぅーん、じゃあ……俺が沙希ちゃんの隣か』

 確かにそうなるけど……庸介の言葉が何となくしっくり来ない。

 しっくり来ないというより、ムッとしている自分に気が付いた。

『お前は、それでいいんだ?』

「い、いや……」

 どうしてもそれでいいと言い切ることが出来ない。

 暫く考えた末、出した結論はこうだった。

「庸介、お前が隣に座れ」

『なんか絵的に嫌じゃね?』

「文句があるならお前だけ電車で来い」

『分かった、分かった。その代わり……中に入ったら俺とタマの邪魔をしないで、沙希ちゃんをエスコートしろよ』

「な……んで、俺が……」

『4人で仲良く回る気はねぇから。いくらタクでも今回ばかりは邪魔させない』

 珍しく真剣な庸介の声に気圧されてしまい、拓朗はそれ以上言うことが出来なかった。

end



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