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25日夜明け前ver.日和

 12月25日、貴俊と祐二が恋人同士らしく甘い朝を迎えるより、さらに一時間ほど前。

「日和、日和! ひーよー、起きろ」

「んんー」

 自分の固い布団とは違う、柔らかいベッドと柔らかくて軽いのに暖かい掛け布団、心地良い眠りの中にいた日和は頭上から降って来た声に目を開けた。

「寝たばっかなのにー」

「だからさっさと寝ろって言ったのに」

「だってー、眠れなかったんだもーん」

「車ん中で寝ればいいから、とりあえず起きろ。朝飯は……途中で食えばいいか」

 自分よりも睡眠時間が少ないはずなのに、俺の恋人は眠そうな顔一つ見せない。

 タバコを銜えたまま、肩近くまで伸びた髪を一つに括る姿、薄いシャツの下で動く筋肉にドキドキする。

 本当に嬉しくて嬉しくて眠れなかったんだよ。

 こんな気持ちでクリスマスを迎えるのは何年ぶりだろう、今まではクリスマスが来るたびに世間とは反対に気持ちは重くなるばかりだった。

 今年はまるで子供の頃に戻ったみたいに、指折り数えてこの日を待った。

「こーら、ひよ! 早く起きろ」

 恋人だけが時々口にする、特別な愛称で呼ばれると口元が緩んでしまう。

「んっ」

「なんだ、それ」

 布団の中から両手を上に伸ばすと、怪訝な顔で見下ろされた。

「だーかーらー、んっ!」

 少し待つと呆れたため息と一緒に長い腕が伸びて来て、身体を救い上げるように背中に回される。

「この寝ぼすけ」

 腰掛けて目線が近くなった恋人の顔、怒っているように見えても目が笑っている。

「これ、してくれたんだ」

 右耳に光る真新しいシルバーのピアス、生まれて初めて家族以外に買ったクリスマスプレゼント。

「俺も一緒にしたいなー」

 同じピアスを一つずつ、そう思って自分にも似合うデザインにしたのに、俺の恋人はピアスを開けることを許してくれなかった。

 高校生の俺にあんなことやそんなことや、ピアスを開けるよりずっとすごいことをしているのに、高校卒業するまでダメだって言う。

「これからもずっと一緒にいるんだろ。だったら焦って今開けることはない」

「分かってるもーん」

 本当は少しだけ不安があるけど、自分に向けられる優しい瞳がその不安も拭ってくれる。

「あーもう。時間ないんだぞ」

「分かってるよー、だから今起きるしー」

「そうじゃねぇよ。朝からあんま可愛い顔見せんなってこと」

 タバコを灰皿に押し付けたその手が頬を撫で、そのまま顎に添えられるとタバコの匂いの残る唇が重なった。

end



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