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狩りの季節がやって来ました。
12月1日、この日ホストクラブ『CLUB ONE』のオーナー・池上誠は気合が入っていた。
一年で一番のシーズン、月初めからNo.2のバースディイベントを皮切りに、イベントに次ぐイベント、NO.1のバースディイベントこそないものの、それに匹敵するクリスマスイベント、さらにカウントダウンパーティへと続く。
(今日のミーティングで喝を入れてやるか)
月初めは恒例のフォーマルデー、その為の服を選ぶため、クローゼットを開けた誠は顎に手を当てて唸る。
(もう2〜3着増やすべきだな)
12月は特にフォーマルなものを着る機会が多い、同じ物を必死で着回すようなことはしたくなかった。
(最近は陸や響みたいにスーツ買ってくれる客もいなくなったからな。特に響はそういう点では客を扱うの上手い)
会話が得意ではない響がNo.2の位置を守っていられるのは、その独特な雰囲気だと思っている。特に年上の女性から絶大な人気を誇っていた。
最近は雰囲気もずっと柔らかくなり、たまにしか見せない笑顔に落とされる客も多い。
(それでも陸には勝てない。アイツには天性の才能でもあんのかね)
店一番の問題児、遅刻早退欠勤の常習犯、普通の店ならとっくに解雇、それが出来ないのは経営者としては失格だが、陸に対する思い入れが大きいところもある。
勤務態度は良くなくても成績は良い、同伴もアフターも少ないくせに、一度店に出れば次々とボトルが空いていく、その光景は見ている側としては壮観だった。
(今月は特に陸には注意してないとな。なんていっても麻衣ちゃんの誕生日もあるし、クリスマス・年末年始と続くからな)
ますます気を引き締めなければと思った矢先、ベッドに置いてあった携帯が鳴った。
「メールか」
携帯を取りにベッドへと足を向けたが、さらに立て続けに着信音が2回続けてなる。
どれもメールの着信を告げる音、偶然にしては三通も同時に来たことに嫌な予感を感じ、誠は慌てて携帯を開いた。
『今日は22時に入る。仕事は指示済』
一通目は彰光から。
『すみませんが、今日は21時過ぎに入ります』
二通目は響から。
ここまでくると三通目は開かなくてもその内容まで予想が出来る、誠はこみ上げる怒りを抑えながら三通目を開いた。
「今日は休むー!明日は多分行くー!」
まるで遊びの予定をキャンセルするような軽いノリは差出人を見るまでもなく陸からだ。
「あいつら……」
誠は携帯を潰しそうな勢いで握り締めると、一回深呼吸してから発信ボタンを押した。
長い長い呼び出し音、それから留守電に切り替わると誠は舌打ちをして一旦切り、続けざまに発信ボタンを押す。
今度は数回の呼び出し音の後、「プツッ」と繋がったような音がした後に、「プープー」と切れた音がした。
「響、お前は出ると信じてるぞ」
念じるように呟きながら発信ボタンを押す、流れる呼び出し音に辛抱強く待っていると、ようやく電話が繋がった。
『も、もしもし……』
「二人も一緒にいるな?」
『あの……えっと……』
「いるな?」
確信のある声でもう一度問いただすと電話口の響は黙り込んだが、代わりに能天気な声が聞こえて来た。
『麻衣ー、送っていかなくて平気ー?』
『大丈夫!午後からだけど、仕事は定時に終わると思うから迎えもいいよ。ねぇ……本当に仕事、平気なの?誠さんオッケーしてくれたの?』
『問題無(モウマンタイ)!』
『じゃあ、私行くね。お昼はチンして食べて、それじゃあ彰さんも響くんもごゆっくり』
響がオロオロしているのが手に取るように伝わってくる。
怒鳴り散らしたいのを堪え、なるべく冷静さになれと言い聞かせながら響に言った。
「陸に伝えろ」
『あ、ちょっと待って下さい。……はい、どうぞ』
ボタンを押したようなノイズが入った後に響に促され誠は口を開いた。
「クリスマスも年末年始も家に帰れると思うなよ」
『なっ……なんで電話出てんだよ、響!! 誠さんからの電話は無視するって決めたじゃねーか!!』
『いやー俺や陸なら出来るけど、響にはまこっちゃんからの電話を無視するのは無理っしょー』
『はい、無理です』
『無理とか言ってんじゃねぇよぉぉぉぉ!』
音が割れるほどの絶叫が鼓膜を突いた。
『お前なぁ、絶対太刀使わせねーからな!』
『いいですよ。俺はどの武器でもいけますし、その代わりサポートは出来ないかもしれませんね』
『なっ! 彰さん、今の聞いた?響のくせに俺のこと脅した!!』
『響ー、俺のサポートはよろしく頼むなー』
『はい、任せて下さい』
「……勝手にしろ」
電話を切ってため息を吐く。
いっそのこと三人まとめて解雇してやろうかと思ったが、現実的にそれが出来るはずもなくすぐに思い直す。
携帯をベッドに放り投げて、天気の良い冬の空を眺めながら独り言ちた。
「俺も、ゲーム買うかなぁ」
end
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