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天使の祝福
まさかの拓朗の粋な計らいでクリスマスの夜に助手席には可愛い恋人。
暖かい車内には慌てて用意したクリスマスソングがいい雰囲気を作り出し、信号で止まる度に可愛い恋人に目をやればはにかんだ笑みが返って来る。
「着いたぞ。マジでここでいいのか?」
本当ならもっと洒落た所に連れて行きたかったのは山々だったが、本人たっての希望なら仕方ない。
嬉しそうに車を降りるタマに続いて車を降りれば暖房に慣れた身体には厳しい冷たい風が吹きつけてくる。
「うぅー寒いよぅー」
「ばーか、だから言っただろうがー。ほら、車戻ろうぜ」
「ダメだよー! 一度冬の海に来たかったの!」
そう言う声は寒さのせいか震え、おまけに短いスカートが強い海風に煽られて揺れて寒々しい。
「風邪引いてもしんねぇぞ」
「明日から休みだもーん」
「ったく……」
口ではブツブツ文句を言いつつも嬉しそうなタマの顔を見れれば寒さなんて吹き飛んでしまう。
強い風にタマが吹き飛ばされてしまわないように隣に並んで誰もいない砂浜へと下りた。
「うわぁ……真っ暗ー」
「夜だからな」
「もうー」
明かりはほとんどない、月も出ていない真っ暗な夜、ただ波の音しか聞こえない真っ暗な海。
波打ち際に立ちコートのポケットに手を突っ込んで海を眺めるタマの横顔に胸が高鳴る。
「……キレイだな」
「何にも見えないよ?」
「いや……俺には見えるよ。すげぇキレイだよ」
明かりのない暗い海で見るタマは赤ん坊の頃から知ってるタマじゃない、いつの間にそんな表情をするようになったのかと驚かされる。
「つーか、寒いっ! 早く戻ろうぜ」
さすがに身体の芯まで冷えそうな寒さにロマンチックな雰囲気はあっという間に吹き飛んだ。
歯の根が震えガチガチと音を立たせながらその場で足踏みしていると振り返ったタマが声を上げて笑った。
「庸ちゃん、おじさーーーん」
「そんなこと言うかっ! こいつめっ」
ポケットに手を突っ込んだままカシミヤのロングコートを大きく開いてタマの身体を抱きしめた。
「よ、庸ちゃんっ!?」
「あーーーあったけぇ。カイロ代わりになってろ」
「もうっ! 私はカイロじゃないよ」
「じゃあ湯たんぽ。俺専用な」
「もう……」
「嫌なの?」
「嫌……じゃないもん」
つむじしか見えないけれど真っ赤になった顔が頭に浮かぶと抱きしめる手に力が入る。
さっきまでの寒さはどこへやら、じんわりと伝わってくる温もりに身体だけでなく心までも解かれていく。
「ターマ」
「んー?」
「タマの心臓、すげぇドキドキいってんのな」
「だ、だってぇ……」
「もっとドキドキさせていい?」
「庸ちゃん?」
「上、向いてみ?」
自分でも恥ずかしくなるほど甘い声にタマは何をされるのか分かっている顔で俺の顔を見上げる。
恥ずかしそうに口元をモジモジと動かすタマの唇を見つめていると白い物がふわりと落ちた。
「……あ」
風に舞って落ちてくる天花に二人の声が重なった。
「チェッ……雪に先越されるなんてな」
次々と舞い落ちる雪に文句を言いつつも、柔らかい唇に雪よりもソッと小さなキスを落とした。
end
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