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先生「6月」オマケ

 帰る前に携帯を確認したけれど、着信もメールもないことに思わずため息が出る。

 さすがにあれはないよな……。

『こんなとこで遊んでるな。早く帰って勉強でもしろよ』

 あの時の奈々の泣き出しそうな顔が頭から離れない、おまけに何も連絡が来ないことがさらに追い打ちを掛けている。

 あんなこと言うつもりはなかったんだ。

 まさか学校に来るとは思わなくて、体育館に現れた時には目を疑った。

 高校を卒業した生徒が卒業後も顔を見せたりするのはたまにあることで、部活に陣中見舞いだと言って差し入れを持ってくる生徒だっている。

 それくらい卒業した生徒が学校に遊びに来ることは当たり前のことだったのに、奈々の姿を見た途端かなり動揺してしまった。

 おまけにあんなとこを見せられて……俺も大人げなかったよな。

 とりあえず連絡しないとな、電話……いやメールでまずは様子をみるか……。

 職員室を出て駐車場へと向かう途中で後ろから声を掛けられた。

「北倉先生もお帰りですか? お疲れ様っす!」

 隣に並んだのは国語教師の川口惟一郎、年も二歳しか変わらないこともあり他の先生よりも親しくしている。

 今年からは互いに二年の担任を任せられたことと、一人暮らしということもあり仕事抜きで食事や飲む機会も増えていた。

「お疲れー……って何でニヤニヤしてるだ?」

「いやぁ……だって。今日来てましたよね? 職員室で見ましたよ。か・の・じょ!」

「ははは……」

 卒業式のあの出来事はあまり大事にはならなかったものの、その場にいた川口にはバッチリ見られていた。

 もちろんその後で問い詰められて、隠し通すことも出来ず白状してそれ以来何かと俺と奈々のことに興味を抱いているようだ。

「ちょっと垢抜けた感じでしたねー。やっぱり、北倉先生の影響ですか!」

「いや……あのくらいの女の子は何というか驚くことが多くて……」

「俺もあんな可愛い彼女が欲しいですよー」

「またそんなこと言ってると、教頭に説教食らうぞ」

 川口はさすがに引き攣った笑みを浮かべて首を竦めた。

 川口はおよそ教師には見えない、茶髪にピアスにアイドルのような顔立ち、気さくな性格とくだけた態度に生徒からの人気も厚い。

 おかげで女子生徒絡みの問題も多く、先日も一悶着あって怒られたばかりだ。

「ぶっちゃけて、どうなんです? 年が離れてるのって」

 二人になるとこんな質問ばかりで、本気で生徒とどうにかなろうとしてるんじゃないかと心配になってしまう。

 さすがに川口も職を棒に振るようなことはしないだろうとは思うが……。

「色々と大変なことはあるけど……」

「けど?」

 ワクワクとした視線を向けられるのが恥ずかしくて、外に出た所で煙草に火を付けながら奈々の顔を浮かべる。

 いつも一生懸命な感じがして、でも自信がなさそうに不安気な顔を見せる。

 今時の子にしてはまったくすれていない、化粧だって慣れていないくらいだし……。

「先生、もう聞かなくても分かりました。あーもう何も言わず惚気られた気分です!」

「そりゃ、すまなかった。つい可愛い顔を思い出してた」

「はいはい。飯に誘おうかと思ったけど、今度にしますよ! 代わりにコレ貸しますよ。今日はラブラブして下さい。 お疲れです!」

「おお、ありがとな。お疲れさん」

 川口から飲食店のガイドブックを受け取り車に乗り込むのを見届け、煙を吐き出しながら深いため息をついた。

 そうまだ時々不安そうな表情を見せる奈々、こういう関係になったことが信じられなくて、これが夢でも醒めないで欲しいというような必死さが伝わってくることがある。

 そんな奈々をあの言葉がどれほど傷つけたのか……。

 早く安心させてやらないとな。

 まだ何て言うかは決められず、それなら電話にしようと携帯を取り出してボタンを押した。

 end


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