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ももフェス'09 「意地悪な恋」本編オマケ

 西に傾いた強い日射しがガラス越しに照り付けるがエアコンの風がすぐにその熱を冷ましていく。

 さすがに週末のせいか海から市内へと向かう高速道路は渋滞こそしていないものの車が途切れることなく続いている。

 法定速度のゆっくりしたペースで車を走らせながら、わずかに聞こえるカーステレオの音に耳を傾け隣に座るかのこをチラリと見た。

 よく寝てるな……さすがに無理させたか?

 疲れた顔がそれを物語っているがおかげでさっきは話がスムーズに進んだのだから結果的には良かったかもしれない。


 かのこを車に乗せバーベーキューの場所に着くと既に集まっていた何人かに食材を渡して二人とも参加出来ない旨を伝えた。

 ――どうして、菊原さんが課長の車に……。

 女子社員から不満が漏れ、嫉みの込められた視線がかのこに行くのを見てさすがにマズイと思った。

 二人の関係がバレるのは構わないがそのせいでかのこが会社に居ずらくなることだけは避けたい。

 出来ることなら公にしてもいい時期まで隠し通して、誰も何も言えなくなる関係になるまでかのこには会社で笑っていて欲しいと思っている。

 俺が原因でかのこが辛い目にあうことは一つでも減らしてやりたかった。

「菊原さんはどうしても参加したいと言ったのですが、青い顔をしてまで遊び……週明けの仕事に影響が出ては困るので……申し訳ありませんが上司という権限で私が説き伏せました。だから参加できなかったを責めないであげて下さい」

 女子社員の非難の訳がバーベキューに参加しないことじゃないことは分かっているけれどこれ以外に説明のしようがなかった。

 彼女達の非難の訳は十中八九、かのこが俺の車に乗っていることで間違いない。

 もしここで誰かがかのこを送っていくと言い出したら……?

 その時はさすがに断るのは難しいかもしれない、そんなことになってはワザワザこんなことをした意味がなくなってしまう。

 俺は祈るような気持ちで皆の反応を窺った。

「課長ーすみませーん」

 口を開いたのは同じ課の京野さくらだった、人垣を掻き分けながら俺の前に立った京野は後ろの方にいるかのこに目をやってから俺の顔を見上げた。

「菊ちゃんのことちゃんと送ってあげて下さいねー。その辺の駅に置いてったら怒りますよー! バーベキューは一緒に出来なくて残念だけどまたいつでも出来るし……それよりもーゆっくり休んでねってよく言って下さい。くれぐれも……夜更しとかしないようにって」

 京野の言葉に周りは何も言えない雰囲気になり助かった……と思ったが、どうも京野の言葉の端々に何か含みを感じると訝しげに思っているとそれを察したのかニッと笑い返された。

 もしかして……コイツ知ってるのか?

「さぁさぁー早く送ってあげて下さい! あんまりヒドイようなら病院もお願いしますよー菊ちゃん一人暮しだからー」

 いつまでも立ち尽くしている俺を京野は追い立て背中を手で押して来た。

 追い立てられながら数歩進むと手を離した京野が俺の背中に向かって小さく囁いてきた。

「菊ちゃんのこと、ホントにお願いしますね」

 その声にさっきのようなとぼけた感じがないことに俺は「分かった」と一言だけ返事をすると京野はすぐに踵を返し皆の所へ戻っていった。

 予想が当たっていたことに少し驚いたが同時にホッとした、社内に一人ぐらい味方がいた方がかのこもきっと心強いだろう。


 独占欲も大概にしないとな、と自分でも呆れてしまう。

 だがこれほどかのこのことを想っているのに、かのこはまだ俺と一緒にいることを不安に思うことがあるみたいだ。

 その原因が自分にあるのは分かっている。

 他の男のように優しい言葉を囁いてやることも大切に扱ってやることもない、だが俺は俺なりにかのこを愛しているということをかのこは気付かない。

 自分もそんな風に不安になるかのこを見て可愛いと思ってしまうからどうしようもない。

 いつかかのこがその不安に負けそうになってしまうことがあれば……その時は抱きしめていくらでも愛の言葉を囁いてやればいい。

「かのこ……」

 呟いた囁きにかのこが身じろぐがすぐに寝息が聞こえ、俺にもたれかかるように触れた体の熱がまた愛おしさを募らせた。

end


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