W 談話

「アレスじゃない。おはよう。昨日はお疲れ様ね」
「ルッス、おはよう。スクアーロは煩くて敵わないよ、ほんと」
「元気があるって良いことじゃない」
「まあ、そこは見習わないといけないよね」

 次の日の昼、大広間に着いたらそこにはルッスが先にいた。私達幹部は基本的に皆で一つの机を囲って食事を取る。ヴァリアーは仲良しなのだ。…というのは半分以上冗談で、ただ自分で食事の準備をするのが面倒だから、シェフのご飯を貰おうとみんな集まるだけなのだが。
 ルッスの向かいに座る。ルッスは会話が得意だ。お陰で何でも楽しく話すことができる。まともな常識など持ち合わせていなかった私に色々教えてくれたのは彼だ。まあこいつもなかなかに常識無いんだけど。

「ねえねえ、肌の調子がめちゃくちゃ悪いんだけど」
「あらあら、昨日何時に寝たの?」
「帰ったのが2時くらいで、それから色々して…4時くらいかな」

 私は常識的な人間だから、普通に生きている人間はもっと早い時間に帰って、私が帰ったような時間には寝ていることを知っている。お陰で街ゆく人々肌が艶々で健康的だ。

「そりゃ仕方ないわよ。今晩はパックでもしてお肌を休めてあげなさい」
「こんな生活してるから仕方ないんだけど、やっぱもっと高い化粧品使ったほうがいいのかな」
「値段じゃないのよ、値段じゃ!肌に合うかどうかよ」
「色々試してみなきゃ分かんないのかなー、めんどくさい!」

 とりあえず毎日高い下地に高いファンデーションで誤魔化しているが、最近の私の肌は荒れまくっている。大根でも下ろせそうなくらいにゴリゴリだ。

「バランスの良い食事をして汗をよくかいてよく寝る。これが一番ね」
「やっぱ寝る時間が問題だよね。ボスさんも人使いが荒いったら仕方ないわ」
「あ!ボスといえば、また2人でどこか行ったんですって?」

 それは先日の弾丸日本旅行のことだろう。事の詳細を話そうとしたが面倒な人が来たので「また後でね」とルッスに言った。この面倒な人は私がXANXUSに馴れ馴れしくするのが気に入らないらしい。だってXANXUSが私にかまちょして来たんだもん。私のせいじゃないよ。


 皆が昼食を食べ終わった後、ルッスが淹れてくれた紅茶を飲みながら日本旅行の話をする。今日の紅茶はアールグレイだ。大好き。

「XANXUSがお餅食べたいから買ってこいって言ってきてさ。仕方ないから誘ってあげたの。そしたらノリノリで準備しててさ!」
「あらあらあらあら、ボスったら可愛いのね」
「そうなんだよ、駄々っ子赤ちゃんだから」
「ふふふ、それでそれで?」

 ジェット機に乗ってしまうと暇だった。ゲームでもしようかと思ったが、それではその間XANXUSが暇を持て余したら可哀想だ。

「だから、日本の観光名所を調べてどこ行きたいか聞いてたんだ」
「そういえばジェット機でネット使えるようになったのよね」
「そうそう、そしたらさ、何て言ったと思う?」
「何かしら…」

 ジェット機には律儀に椅子がある。まあそれが普通なのだが、乗客はXANXUSと私しかいないというのにわざわざ遠くに座るのは寂しい。というわけで彼の横に立ってスマホの画面を見せていた。チラッと私のスマホを見たXANXUSは私の質問に答えてくれた。

「好きにしろ」

 そうジェット機内でのやり取りを思い出しつつルッスに伝える。するとルッスは急に真顔になった。

「あらやだこれ惚気だわ」
「それを聞こうとしてたんでしょ、お馬鹿さんめ!」
「好きにしろって何なのよボスー!男らしすぎるわ!」

 繰り返しになるが、XANXUSはかまちょだ。構って貰えたらどこに行っても良いということなのだろう。「好きにしろ」とそれだけ言ったら寝てしまったので、好きにすることにしたのだ。

「だからね、キョウトに行ってきたの」
「えっと、並盛より西にあるわよね」
「そうそう。歴史的な建造物がたくさんある観光名所なの。観光客として行っておきたいなと思って」

 XANXUSは人混みにイライラしつつもたくさん食べ物を与えたら静かにしてくれた。そもそも真昼間から罪なき人間を殺生しないような常識は持ち合わせているみたいであった。本当かな。
 目的のお餅を大量に購入して満足そうな彼はとっとと帰ろうとした。日本にも飽きたので私もそれに賛成し、次の日の昼にはヴァリアー邸に帰って来たのだった。

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